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4 長野希と奇妙な老人(と謎のヤクザたち)

 長野希(ながの・のぞみ)の病室を訪れる人は、医師と看護師などの病院関係者を除けば二人しかいなかった。
 その二人は希の両親で、時間があれば必ずベッド脇の小さな椅子に腰掛け、希の髪や頬を撫でながら、いろいろな事を楽しげに語りかけていた。

 希は少し蒼ざめた顔で目を閉じている。ときおり僅かに瞼が痙攣することがあるものの、開かれることは決して無かった。

 そんな日々が5年も続いている。

 希は5歳の時に交通事故で頭を強打した。かろうじて命は取り留めたものの意識は回復せず、植物状態に陥ってしまった。
 脳の損傷の度合いから見て、今後の見通しについて、医師たちは誰もが絶望的との判断を下している。

 死滅した脳は決して再生しないから、語りかけなど無駄だと冷酷に断言する医師もいた。

 しかし希の両親は奇跡を信じていた。

 ひたすらに語りかけることも、たえず希に触れていることも、耳や皮膚から脳に刺激を与えようと思っているからだ。

 10歳にしては小さすぎる体だが、それでも少しずつ成長しているように見える。

 そのことが疲れ果てた両親の心の支えになった。

 医師がなんと言おうと、希の中でまだ時間は流れている。
 二人は希に語りかけることを止めようとはしなかった。

 病室を出て、寄り添うように仕事場に向かう二人を、物陰から見つめる老人がいた。白い麻のスーツを着た老人は、ソフトを脱いで胸に当てた。眼には涙が溢れていた。

 その老人をさらに遠くから見守る4人の黒スーツ姿のヤクザ達は、病院内ではケータイの電源を切れと、掃除のおばさんに注意を受けていた。

「このババア!」と何か言い返そうとした若い男を、一番格上らしい貫禄の男が制した。

 老人から決して視線を外さない男の左頬には長い切り疵が走っていた。
 
 
 ~つづく

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コメント

私も子供の頃「わきが」が分からなくて悩んだ経験があります~(笑)

これから物語がどう進んで行くのか楽しみです!

投稿: みずみず | 2007年10月12日 (金) 16時18分

まったく、先の読めない展開ですが、
ものすごく期待が持てます。
早く先が読みたいなあ。

投稿: ドスコイ | 2007年10月13日 (土) 08時11分

うぉー!なんか面白いです!
じわじわ来ますね!
あんまり小説とか読まないんですけど、これから読み続けます!頑張って下さい!

投稿: みかりん | 2007年10月15日 (月) 21時21分

4回で既に面白いです。 さすが!上村先生(*^_^*) 今後の展開がますます楽しみです。愛が地球を救えるか‥?        早く次が読みたくなる引力がありますね〜。

投稿: Honey | 2007年10月16日 (火) 12時07分

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