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3 伊能高忠と奇妙な老人(と謎のヤクザたち)

「あなたは完全に狂っています。取りあえず30年ほど入院してもらいます。治療法としては、100万ボルトの電気ショック、脳のあちこちにドリルで穴を空けてみるのも良いかもしれませんね。大丈夫、いつかフツーに戻してあげますから」

 なぜかナチの制服を着たドクターがにやりと笑う。そして女子プロレスラーのような女看守に両脇を抱えられて、鉄格子の嵌った暗い病室にずるずると引きずられていく。

 そこまで想像すると、伊能高忠(いのう・たかただ)はぞっとして「精神科」と大きく看板の出た病院の前を足早に通り過ぎた。

 さっきから何度も、同じことを繰り返していた。

 やたらにでかい、6畳ほどの大きさの看板は3枚出ていた。
 近くを通る京浜東北線の車中からでも見えるようにとの考えだろう。
 看板には、それぞれ「精神科」「性病」「わきが」と書かれている。

 伊能も子供のころから、この病院の看板を電車の窓からたびたび目にしていた。
 腋臭という言葉を知らなかった伊能は、わきが、どうしたのだろうと悩んだ。
 なぜ、途中で切れているのか?「わきが痒い」のか「わきが痛い」のか「わきがどうしようもない」のか?
 さんざん考えぬいた末「わきが臭い」のではあるまいかと、ほとんど正解にたどり着いたのは、今思えば奇跡に近い。

 今回悩んだ末、精神科以外に話をきいてもらえるところを思いつかなかった。
 誰かに話さなければ、気が狂ってしまう。いや、もしかするともう狂っているのかもしれない。

 伊能は、大きく深呼吸を一つしてから、病院の門をくぐろうとした。そのとき後ろから肩を軽く叩かれた。

 ぎょっとして振り返ると、白い麻のスーツを着て、洒落たソフトを被った小さな老人が立っていた。

 老人は伊能を見て微笑んでいる。異様に感じたのは、その眼だ。
 幼児のように澄んで、純粋な好奇心があらわれていた。

「なんでしょうか?」
 戸惑いながら問いかける伊能に、老人は1枚の紙切れを渡した。

「貴方が行かなければならないのは、病院じゃない。ここです」
 伊能は渡された紙を見た。パソコンからプリントアウトしたもののようだ。


 異能力者組合 第一回オフ会のお知らせ

 異能力を持った者同士、お互いの能力を披露しあい(スプーン曲げ不可)、また異能を持ってしまった悩み等を楽しく語り合いましょう。(異能力者であるがゆえの、性のお悩みなど大歓迎) 
Let’s Coming Out!

【場所】 新宿サラマンダー(ネットカフェ)コミュニティスペース
【日時】 10月10日 16時から(2時間程度を予定しています)
【二次会】 皆様のご希望があれば、セッティングいたします。
【幹事】 万全 大力(ばんぜん・だいりき)(携帯090-****-****)


 伊能は「異能力」という言葉を凝視した。それから、改めて老人を見つめた。
 老人は相変わらず無邪気な目をして、にこにこ笑っている。

「あなたはいったいどなたですか?私の、その、能力を知ってるんですか?」

 老人は小さくかぶりを振った。
 そして重々しい口調で言った。

「今はそれを明かすわけにはいきませんのじゃ」

 ふと見ると、老人のスーツの胸ポケットに、白いカードのようなものがぶら下がっていた。

 名札のようだった。


 須賀常太郎 83歳 血液型A
 住所 渋谷区***-**-**
 連絡先 03-****-****


「あの、須賀常太郎さんですか?」

 老人はぎょっとした顔になった。慌てて自分の胸元を見た。
 再び顔を上げたとき、瞳から光が消えていた。
 一気に年老いたように見えた。

 老人は突然突拍子もない声で叫んだ。

「ラバウル航空隊、第一高射砲部隊須賀中尉であります!それでは失礼いたします!」

 老人はびしっと挙手すると、思いがけないほどの早足であっという間に立ち去ってしまった。呼び止める暇もない。

「ラバウル航空隊?高射砲?なんだそりゃ……」

 取り残された伊能は、再びオフ会の知らせを読み始めたため、老人の後を追う黒い高級車と中から伊能に鋭い眼を向ける、一目でヤクザとわかる男たちには気がつかなかった。
 
 
 ~つづく

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コメント

上村佑先生の書くキャラクターは、
生き生きしていますね。
これは、新人作家らしからぬ力量です。

投稿: ドスコイ | 2007年10月13日 (土) 08時07分

あれ?4と3が入れ替わってる気が。。。

投稿: Ocean | 2007年10月13日 (土) 08時49分

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