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12 三人の異能力者たち

 伊能は、改めて参加者たちを見渡した。

 老人、万全、二宮、自称予知能力者、他にまだ一言も喋っていない奴が二人いた。

 一人は苦み走った風貌の40代と思われる男だ。

 ヤクザとまではいかなくとも、相当裏社会に近そうな男だ。

 万全の能力というか、その副作用を見ても、表情一つ変えなかった。完璧なポーカーフェイスだ。

 もう一人は、おどおどした感じの若い男で、いつも曖昧な微笑を浮かべていた。

「俺の能力も、実際に見てもらったほうがいい。俺自身良く分からないんだ。屋外で人のいない場所が望ましいんだが、そんな場所がこの辺りにあるかな?」

 二宮が身を乗り出した。
「このビルの屋上はどうですか?立ち入り禁止なので、誰もいませんよ」

 手鏡を見ながら、熱心にバベルの塔を頭の上に再構築していた万全が、心配そうな表情で口を尖らせた。

「立ち入り禁止じゃ駄目じゃない。俺嫌だよ。規則破って怒られたりするのは」

「立ち入り禁止といっても、チェーンが一本張られているだけです。外側の非常階段を登るのが、ちょっと大変ですけど、僕は運動不足解消のためにも時々上がるんです。一回も怒られたことないですよ」
「そりゃあ、あんたは透明人間みたいなもんだから……」

 ぶつくさ言う万全を無視して、伊能が大きくうなずいた。

「屋上は理想的だな。じゃあ俺の能力のお披露目はそこでやろう。万全さん、そういうことで俺は最後に回してくれ。まだ聞いていない二人から自己紹介をしてもらおう」

 ホントはここでニコッと笑って万全を見るところだった。それが伊能の得意技なのだ。

 どんな集団においても、良いポジションを得ることができた理由だ。
 しかし今は笑顔を作ることさえできなかった。
 唇が僅かに歪んだだけだった。

「俺は土岐(とき)という」
 ポーカーフェイスの男が静かな声で語り始めた。

「俺の家系は相当古くまで辿れるんだが、一つ奇妙な言い伝えがあってね」

 伏し目がちで話していた男が不意に顔を上げて、伊能をまっすぐに見つめた。

 静かな眼差しだが、修羅場を見てきたような眼だと思った。
「何代かに一人という割合で、不思議な力をもつ者が現れるらしい」
 煙草を吸いながら、土岐はゆっくりとした調子で語った。

「時間に干渉できる能力らしい。俺の遠いご先祖では、明智光秀という人がこの能力の持ち主だったと伝わっている」

 土岐は煙草を灰皿で丹念に押しつぶした。

「俺は明治以降初めて土岐家に現れた能力者ということになっている。だが、じゃあ何ができるか、見せてみろと言われても困る。時間に干渉しても誰もそれを認知できないからだ。ただ俺自身が証明ともいえる」

 土岐は初めて微笑のようなものを浮かべた。

「俺は博打うちだ。プロギャンブラーってやつだな。博打以外は一切やらない。それでもこうして生きている。ある意味、能力の証明ともいえる」

「時間に干渉っていいますと、具体的にはどんなことなんですか」
 万全が恐る恐る聞いた。

「今言ったように、俺にとっては飯の種なんで、あまり詳しく話したくないが、時間の体感速度に作用するとだけ言っておこう」

 老人が大きな咳払いをした。皆の眼が老人に集まった。

「楽しいことをしているとき、時間はあっという間に過ぎる。嫌なことをしているとき時間はなかなか進まない。そんな感じの事ですな?」

 土岐は軽くうなずいた。
 万全が大げさに感心していた。

 最後に残った若者が話し始めた。
 相変わらず意味不明の微笑を浮かべていた。

 伊能は小学生のころ、学校でいじめられていた子がこんな表情を浮かべていたことを思い出した。

「僕はタケトっていいます。19歳です。最近までいわゆるヒッキーしてました。6年間くらい太陽の光を浴びませんでした。あ、そんなことはどうでもいいですね。僕の能力は動物と会話とまではいきませんが、意思の疎通ができることです。ただし、どんな動物にも通用するわけではありません。例えば猫でも話せるやつと、そうでないやつがいます。まだまだ実験してみないと何故そうなのかわかりません」

 タケトはそこまで話して、皆の反応を窺うようにおずおずと顔を上げた。

 そして思い切ったように先を続けた。

「この能力には重大な副作用があります。能力を使ったあと、しばらくの間、相手の動物並みの知能になってしまうんです。三日くらい元に戻らない時があって、親にもばれてしまい、僕は精神病院に1年入院させられました」

 伊能は老人に向かって訊ねた。
「なんでこんな副作用みたいのがあるんだい?超能力者って、もちっとかっこいいと思ってたけどなあ」

 老人は少し目をしばたいた。
「例えば目の見えなくなった者が、鋭い聴覚を得たりするのと同じだと思うのじゃが。何かを得れば、何かを失う。なかなかうまくはいかんのじゃよ」

 伊能は納得したような顔で老人を見つめた。

「じゃあ、俺の能力を皆さんに見てもらうか。その前に一つだけ断っておかなくてはならないことがある。能力を使うと、俺は一定時間、おそらく15分位動けなくなる。で、その間色々なことを喋るかもしれないが、まったく俺の思ってもないことなので、何を言っても聞き流してくれ。いわゆる副作用ってやつだから。いいかな?」
 全員、意味が分からないながらも、頷いた。

 二宮の案内で全員が屋上に上がった。

 階段で10階以上も上がるのだから、万全などはせっかく結いなおしたばかりのバベルの塔が汗で崩壊寸前になっていた。

 広い屋上の中心あたりで伊能は立ち止った。
 自然皆はその周りを囲む形になった。

 伊能は晴れ渡った空を眩しげに見上げながらいった。

「俺の能力は、なんて言ったらいいのか……Googleのマップサービスってあるだろ。住所を入力すると、航空写真みたいなのが見れる。GPSにも近いかな。とにかく能力を使うとき、俺はアンテナのようなものになるらしい。まあ今からやって見せるから、いろいろと質問してくれ」

 伊能はそう言って、深呼吸を一つした。

 そして晴れ渡った秋空を眩しそうに目を細めて見上げ、両手を万歳するような形で空に向かって上げた。

 まるで体に金属の柱でも通されたように、伊能の体は硬直し、まさにアンテナのようだった。

 しばらくすると伊能の体がゆっくりと回転を始めた。
 ウイーン……ウイーンと音を立てているように聞こえるのは、どうやら伊能が口で言っているようだ。

「アクセス完了!」

 伊能が先ほどまでとは違う、まるでコンピュータ音声のような声を出した。

「さあ、何でも聞いてくれ。今俺には衛星から見ているらしいこの場所が見える」

 万全がくるくる回っている伊能に質問した。
「あの、ここはどこですか?」

「日本」

「もう少し詳しく……」

「解析度を上げる。完了!」
 伊能の回転速度が少し速くなった。

「ここは……東京!」
 万全が当惑したような顔になった。

「さらに解析度を上げる。現在解析度マックス。30センチまで識別可能」

「ここは新宿!ビルの屋上に7人の男が見える。一人はあり得ないような髪型。……非常階段を上がってくる人間が見える。二人……警察か……警備員と判明。あと5分位で屋上に到達するぞ。ヤバいぞ!俺!動けねえし!」

 万全が不安げに周りを見渡した。

「何も聞こえないし、何も見えてない。本当に警備員が来たら、能力の証明だ!」

 5分後、息を切らせた警備員が2名、鬼のような形相で屋上に姿を現した。
 
 
 ~つづく

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コメント

おおおおーーーー。
サラマンダー全員登場ですね。
特徴的な、或いは個性的な超能力者たち。
これからの、展開が期待できます。
早く先を読みたい、苛立ちを感じます。

投稿: ドスコイ | 2007年11月17日 (土) 20時47分

七瀬ふたたびっぽい感じがしました。

面白いですよ、七瀬ふたたび。読んでみては?

投稿: M | 2007年11月17日 (土) 23時37分

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