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9 恐るべき異能力者

 うぞぞぞぞぞぞぞと微かな音が響いてくる。

 くおぉぉぉぉぉと万全の食いしばった歯の間から呼吸が漏れる。

 万全の小さな目が極限まで見開かれている。

 異様な気配が、息をのんで見つめる伊能たちを圧迫してくる。

「あ、あああ」と自称予知能力者の若者が、思わず万全のバベルの塔のような頭髪を指さし、口を開けたまま呆然とした表情で凍りついた。

 室内だから無風である。

 万全は両手を前に差し出したまま、微動もしていない。

 しかしバベルの塔だけがゆっくりと回転しはじめ、やがて複雑な構造であるにもかかわらず、徐々にほどけていく。

 ざわざわと一本一本の髪の毛がそれぞれ蠢いている。

 まるで頭髪だけが別な生き物のようだ。

 宇宙人の二人も離れた席から仰天して見つめていた。

 やがてバベルの塔は砂上の楼閣のように音もなく崩れ去った。

 まるで落武者かさらし首、あるいは河童のような髪型になった。
 万全の顔からは汗が噴き出している。

 太い眉毛まで逆立っている。

 目の玉は今にも飛び出してしまいそうだ。

 伊能の全身に鳥肌が立った。
 この世のものとは思えないほど、それは恐ろしい光景だった。

 大きく剥き出しになった頭頂部の周りの長い毛が、ゆっくりと逆立ち、毛先が天井に向かって持ち上がっていく。

 はらはらはら……。
 立ち上がりかけた毛髪が力尽きたように抜け始めた。

「だ……」
 うめくような予知能力者の呟きが、叫びに変わった。

「だ……脱毛力!」
 万全がちらりと予知能力者を見て、必死の形相で首を振った。

 そのせいかさらに大量の毛髪が抜け落ちた。

「あっちですじゃ」
 老人が指さしたのは、万全が手を伸ばした先だった。

 テーブルの端に誰かが使用して小さく丸めたティッシュが置かれていた。

 伊能には目の錯覚か、ティッシュがわずかに浮いたように見えた。
 ティッシュは音もなく、テーブルの端から床に落ちた。

 そのとき傍を通り掛かった人が起こした風のせいにも見えた。

 大きな溜息をついて、万全が顔の汗を手でぬぐった。
 フルマラソンを走り切った後のように息を荒げ、消耗しつくしている。

 万全の肩や床には、それとわかるほどの大量の毛髪が抜け落ちていた。

 やや面積を広げたように見える頭頂部が、汗でびっしょりと濡れて、店の照明を反射して眩しく光っていた。

 すぐには話すこともできない様子の万全に代わって、老人が重々しく口を開いた。

「これこそ念動力ですじゃ!鬼畜米英や露助共が必死になって探してもついに得ることができなかった。本物の異能力者じゃ!」

 全員半信半疑ながら、おおっとどよめきの声をあげた。

「でも脱毛の方が凄いよね」

 予知能力者の言葉に伊能も頷いた。

「いちいち毛が抜けてたら、あっという間にツルっ禿だぜ。あの程度の力を発揮するためにしちゃ、代償がでかすぎないか?」

 そう言うと、伊能は全員を見渡して、最後に老人を見つめた。
 老人が何か言いかけようとしたとき、ある事に気がついて、伊能はぎょっとして参加者たちを見直した。

 いつの間にか、一人増えている。

 見知らぬ男が座っていた。
 
 
 ~つづく

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コメント

上村先生の文章はビジュアル的ですね。
書いている内容が頭の中に浮かびます。
上村先生の、独特な才能だと思います。

投稿: ドスコイ | 2007年11月 8日 (木) 05時46分

上村先生♪毎回楽しみにしてます!今度は代償つきの超能力??ぅ〜ん ますます先が気になります!

投稿: Honey | 2007年11月10日 (土) 09時36分

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