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13 伊能の副作用(果てしなくだだ漏れするアレ)

 警棒を握りしめ、険しい表情で近づいてくる警備員たちに、万全が頭を掻きながら近寄っていった。

 なんとか丸く収めなければと思っていた。

 そのとき、屋上に突拍子もない叫び声が響き渡った。

「敵機来襲じゃあ!」

 警備員たちもぎょっとして立ち止まった。

 声の正体は老人だった。
 のんびり飛んでいるヘリコプターを睨んでいる。

「高射砲部隊は緊急配置について応戦せよ!」

 あっけにとられた顔でその様子を見ていた警備員たちが、近寄ってきた万全を見て、さらに驚き、少し後ずさりした。

 万全の奇天烈な髪形に、カルト教団などの怪しげな組織が思い浮かんだのかもしれない。

 若い方の警備員が、動揺したことを恥じるように、ことさら厳しい声を出した。

「皆さん、ここは立ち入り禁止の場所です。速やかに退去してください。それから今後立ち入りをした場合は、即座に警察に通報しますよ」

 いつの間にか屋上の隅まで走って行った老人が、今度は大きな声で歌を歌いだした。

 意外とよく通るいい声が聞こえてくる。

「さーらばラバウルよお、またくる日まあで……」

 声はだんだん小さくなり、やがて膝を抱えてしゃがみ込んでしまった。まるで小さな子供の仕草だった。

 万全がとりなす様に警備員に何度も頭を下げた。

「すみません。もう二度と立ち入りませんので、あと15分だけここにいさせてください。ちょっと連れの具合が悪いものですから」

「あの人かい?具合が悪いのは」

 年を取った方がそう言って、伊能の方へ歩いて行った。

 そして、くるくる回る伊能をしばらくの間興味深そうに見ていた。

 突然伊能が猛烈な勢いで喋りはじめた。

 あまりにもスピードが速くて最初何を言っているのか聞き取れないほどだった。

「こら警備員!勝手に人を見るんじゃねえ!あっち行け。だいたい、そのお巡りもどきの制服はムカつくんだよ。俺のことはほっとけ。ただのアンテナが立っていると思ってくれればいい。お前ら大して高い給料もらってるわけじゃないだろう。15分間だけ待てよ。そうしたら俺も動けるようになるし。……畜生おおお!なんで真澄の奴は出て行ったかなあ。会いたいよお。もう一度抱きしめて、笑いあいたい。何もかも失って、得たものがアンテナ人間になったことだけ?ふざけんじゃねえよ!元の生活に戻れるのなら、この屋上にいる変人どもを全て生贄に捧げてもいいぜ!」

 伊能は回転しながら、機関銃のように言葉を乱射した。

「それにしてもよ……このメンバーはひでえな。まあ、どいつもまともな人間には見えないよ。あのチビ公の禿頭見てみな。禿の上に塔をおっ立てるなんて、あいつは天才的なバカ者だな。これほど日本人離れしているやつはちょっといないね。もちろん悪い意味でね。地球人離れしていると言ってもいいくらいだ。奴は女と付き合ったことがない。全財産賭けてもいい。あのジジイはぼけ老人だろ。小学生みたいに胸に名札つけてら。そこの若いのはひきこもりだってよ。精神病院にもいたんだと。あっちの渋いおじさんは博打うちだ。つまりはやくざみたいなもんだろう。自分は宇宙人だと思っているやつもいたな。地球人だって立派な宇宙人だよなあ。バカバカしい予知能力者と、やたらに影が薄い奴、最後が動物と話せるって、だったらムツゴロウさんに雇ってもらえよ。おまえら皆バカばっかりだ。文句があるならいつでもマンチキ勝負をしてやるぜ。言っとくけどなあ……俺はケンカ弱いぜ」

 凄まじいスピードで放たれる罵詈雑言の嵐がふと止んだ。

 周りに集まっていたものは皆、ちょっと傷ついたような顔つきだった。

 憤懣やるかたのない表情で万全が言った。

「そんなにこの髪型変ですか?能力の副作用で起きる脱毛を少しでも食い止めようと、何百回も試行錯誤して完成した髪型なんですよ」

「ヅラ買え。人を髪の毛で笑わすな」

「あの、伊能さん」

 二宮がおずおずと声をかけた。

「さっき言ってたマンチキ勝負ってなんですか?」

「それはなあ、埼玉県の一部の小学校で流行っている言葉で、タイマン勝負のことだ。俺に教えてくれたのは娘の由美だ……由美ぃ、由美とも会いたいよ……」

 だんだん伊能の回転する速度が落ちてきた。
 副作用も終わりに近いらしい。

 警備員までが押し黙っている、嫌な雰囲気に伊能は少し慌てた様子になった。

「ほらさっき言ったよね。副作用だから、気にしないでって。ホント心にもないことを、ぺらぺら喋ってるだけだから。ところでさ、万全さんって何歳?45歳くらいかな?」

 万全はさらに暗い顔になって、ぼそっと答えた。

「今年で25歳になりました。伊能さんは若いですよね。30歳位ですか?」

 伊能はしまったという顔をした。

「俺はもう35だよ。それにしても25歳か。大人っぽいねえ」

「母親と歩いていて親子と思われたことがありません。夫婦だと思われます」

「彼女は……いねえよなあ」

「今は大切な時期なので女性に心を奪われているような時間はありません。でも、この世界のどこかに僕を待っている人がいることを信じています」

「そうかあ。きっと遠くにいるんだろうなあ。アフリカの中央部あたりとかな。今頃ライオンと闘ってるかもな」

 ムッとした万全に「副作用だからな。気にすんなよ」と声をかけて、伊能は老人の様子を見た。

 どうやら気持ちが落ち着いたらしく、ゆっくりと伊能達の方へ歩いてきた。

「万全、あの爺さんボケてるんだろ?なぜ時々鋭くなるんだろう?」

「不思議ですよねえ。まだらボケってやつじゃないですか」

「そんな爺さんが最高顧問で大丈夫なのかよ?」

「とにかくあっという間に膨大なデータを調べることができるんです。須賀さん、それがお爺さんの名前ですが、彼が一番すごい能力者だと思います」

 伊能の回転はきわめてゆっくりとしてきた。

「回転が止まると動けるようになるから。それにしても俺の能力って何なんだ?ボケ老人に聞いてくれよ」

 伊能がそういったとき、須賀老人が凄い勢いで伊能のもとにきた。

「本気で言ってませんから。全部副作用のせいで、心にもないことですから……」

 老人は伊能の言葉など聞いていなかった。

「あなたの力はおそらくRemote viewingじゃ」

「なんすか、それ?」

「遠隔透視とも呼ばれておる。昔は千里眼と言った。あなたは人工衛星の眼を使うことができた。理論的には、防犯カメラなどの、あらゆる電子的な目にアクセス可能ではないだろうか。あんたがさっき使った偵察衛星はアメリカが北朝鮮を監視しているカメラだから、セキュリティは最高レベルだと思うぞ。まだまだ、これから開花する能力だ」

 伊能の体が止まった。
 そのとたん身体から力が抜けて、座り込んでしまった。

「なるほどなあ。アンテナだけじゃないのか。正直言って、気が狂ったんだと思っていた」

 警備員が我に返ったように、伊能達を追い立てにかかった。

 分かった分かったと煩そうに手を振りながら、伊能が先頭になって非常階段を下りはじめた。

「サラマンダーに戻ればいいんだろう?」

 振り返って万全に聞いてきた伊能に「そうです」と答えると、万全は老人の体を支えながら階段を注意深く下りて行った。

「それにしても伊能さんの副作用には驚きましたね」

 万全に老人はにっこりと微笑んだ。

「そうじゃのう。心で思っていることを全部喋ってしまうとはの」

「えっ!じゃさっきのは?」

「もちろん、全て本音じゃ」
 
 
つづく

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コメント

テイストが好みです。
特性の異なる超能力をどう組み合わせて、話を転がしていくのか、これからの展開も、楽しみにしています。

投稿: ムージー | 2007年11月22日 (木) 04時19分

須賀老人が活躍しています。
上村佑先生の処女作「守護天使」の
主人公須賀啓一と同じ苗字ですね。
何か、関係があるのでしょうか?

投稿: ドスコイ | 2007年11月22日 (木) 08時04分

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