« 17 熱い友情で結ばれつつある異能トリオ | トップページ | 19 容疑者 万全大力 見るからに変質者と呼ばれた男 »

18 サラマンダーの幽霊(2)

 ブースに戻って一人になると、タケトは早速ネット上でサラマンダーについての噂話などを拾い集めた。

 サラマンダーの幽霊話を語っている、都市伝説板に新しい書き込みがあった。

〔友人がサラマンダーのシャワー室近くで、浮遊する女の首を見たらしい。殺された少女のものだろうか?情報求む〕

 書き込み日時を見ると、1時間前だった。

 タケトはブースを出て、シャワー室へ向かった。

 暗くて狭い通路を通ってシャワー室の前に行くと、黄色い立入禁止のテープが張られてあった。

 警官が一人、手持無沙汰に椅子を置いて座っていた。
 タケトは一応警官に声をかけた。

「あのー、男性用のシャワー室も使えないんですか?」

 あくびを噛み殺しながら、警官はじろりとタケトを見た。

「明日もう一度調べるんで、今日は使えませんよ」

 まさか、幽霊の話もきけない。
 タケトはあきらめてブースに戻ろうと思った。

 ふと、この辺に好きなマンガが置いてある本棚があることを思い出し、ついでに何冊か持っていこうと、本棚でコの字型に区切られた狭いスペースに入っていった。

 ぎっしりと漫画本が詰め込まれた本棚を、目当てのコミックを探して眼で追ううちに、視界が揺らいだ。

 地震かな、と思った。

 微かにカビ臭いような匂いがした。

 タケトは異様な感覚に戸惑った。

 慣れ親しんだサラマンダーの空間が一瞬で、何か異質な世界に変貌したように感じたのだ。

 タケトの探していたコミックが見つかった。

 本の間から、漫画のキャラクターが飛び出して、タケトを手招きしているので気がついたのだ。

 声も出なかった。

 狂ったのだと思った。

 タケトは何かに吸い寄せられるように、天井を見た。

 真っ白な、女の顔が、顔だけが浮かんでいた。

 長い髪を翼のように広げて、美しい女の生首がタケトを見つめ、笑っていた。

「あ、あ、あ」

 叫ぼうとするタケトの声は、漫画の吹き出しのように、口から風船のようなものにくるまれた文字として、ぷかりぷかりと宙に浮かんだ。

 これは悪い夢だと思った。

 その証拠に、逃げ出そうとしても、足にも腰にも力が入らない。

 精一杯の力を振り絞って、女の首から目をそらし、なんとか体の向きを変えた。

 あとは足を動かすだけだ。

 逃げろ。逃げろ。

 足が異様な重さで持ち上げられない。

 警官がそばにいる。

 叫べ。叫べ。

 喉から出るのは相変わらず文字だけだ。

 突然、右の肩がひどく重くなった。

 タケトは眼だけ動かしてそちらを見た。

 タケトの肩に女の顔が載っていた。

 女の大きく開いた口から、舌が長く延びてタケトの耳を舐める。

 しゅうしゅうという息使いの中で、女が囁いた。

「アシッド」

 首筋がひやりとして、一瞬後盛大に血が噴き出した。

 同時にタケトの体に力が戻った。

 めちゃくちゃに両手を振りまわしながら、タケトは倒れた。

 物音に気がついて飛んできた警官は、首筋に手を当て血まみれで転げまわるタケトを見て、すぐに周りを見回したが、誰もいなかった。

 警官は眩暈を覚えながらも、救急車を手配した。
 
 
 ~つづく

|

« 17 熱い友情で結ばれつつある異能トリオ | トップページ | 19 容疑者 万全大力 見るからに変質者と呼ばれた男 »

コメント

もう、次が読みたくてたまりません。
上村さんは、本当はどんな人なのでしょうか。

投稿: トレビノ | 2007年12月12日 (水) 07時59分

>長い髪を翼のように広げて、美しい女の生首が
怖いですね。
長い髪を翼のように広げて、
想像しただけで、卒倒しそうです。

投稿: ドスコイ | 2007年12月13日 (木) 08時07分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 17 熱い友情で結ばれつつある異能トリオ | トップページ | 19 容疑者 万全大力 見るからに変質者と呼ばれた男 »