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22 拉致

 万全と二宮は夜を通して話し合った。
 初めて入ったネットカフェの居心地が悪くて、とても眠れそうになかったからだ。

 夜が明けるとすぐに二人はネットカフェを出た。
 万全は仕事に行くために、二宮はもっと寝心地のよさそうなネットカフェを探すために。

 歌舞伎町と西武新宿駅の間の、狭い路地が交錯する場所にある穴倉のようなネットカフェから出た二人は、駅に向かって歩き始めた。

 まだ薄暗い路地には、ゴミをあさるカラスたちばかりが我が物顔で歩き回っていた。

 横道から、黒っぽいスーツを着た3人の男が目の前に現れた。

 気がついた瞬間、万全はくるりと回れ右をして逆方向へ歩き出した。

 二宮があわてて後を追う。

 しかしそちら側にも行く手を遮るように、同じような格好の3人の男が現れた。
 チンピラではなかった。
 もっと本格的なヤクザたちに見えた。
 万全は恐怖で顔がこわばるのを感じた。

 二宮は必死で消えようとしていたが、心臓がどきどきしてまったくうまくいかなかった。

 6人にあっという間に取り囲まれた。
 頬に長い傷のある、冷酷な目つきの男が口を開いた。

「すまないが俺たちと一緒に来てもらう」

 有無を言わせない口調だった。

 何かいおうと口をぱくぱくさせた万全は、両脇から体格のよい二人の男に抱えられた。

 思わずしゃがみこもうとしたら、ベルトの後ろに手をかけられて、小柄な万全は完全に宙に浮いた。

 二宮を見ると、同じように両脇を抱えられて、強引にどこかへ引きずられていく。

 必死の形相で振り返る二宮の目は怯えきっていた。

 突然強い怒りが万全を支配した。
 万全の髪がざわざわと騒ぎ出した。

 捕獲した小猿のように万全を抱えあげていた二人のヤクザが、一人は前方へ、一人は後方へ弾かれたように飛んで、薄汚い地面に叩きつけられた。

 自由になった万全はすかさず二宮を助けに走った。

 しかし頭の後ろに硬いものを突きつけられて動くことができなくなった。

「動くな。面白い技を持っているな。だが、こいつは玩具じゃねえ。勝負してみるかい?」

 そっと振り返ると、黒い大型の拳銃がまっすぐ万全の目と目の間を狙っていた。

 拳銃を握っているのは頬に傷のある男だった。
 冷酷な目に少し愉快そうな光が宿っていた。

 万全はがっくりと肩を落とした。

 倒れていた二人がいまいましそうな顔で近寄ってきて、再び万全を乱暴に抱えあげた。

 黒塗りの大型の外車に二人は乗せられた。
 フルスモークで中はまったく見えないようになっている。

 車の中で二宮が万全に囁いた。

「すごい力じゃないですか。僕、感動しました」

「全然すごくないよ……だってあれは合気道の技だもん」

「合気道……そんなことできるんですか?」

「集中力とか、気を学ぼうと思ってずっとやってたんだ。もちろん超能力特訓のためにね」

「それにしてもすごいっすよ。脱毛力もある意味ではすごいけど、こっちの方が全然すごい」

 万全はむっとして二宮を睨んだ。

「脱毛力じゃなくて、念動力!まあ、合気道では日本選手権も取ったけど、普通の力だからなあ……」

 前の座席で二人の話を聞いていたらしい頬傷の男が万全たちを振り返って見た。

「そうか……兄さんの使ったのは合気道か。やるじゃねえか」

「でもピストルにはかないませんよ」

 頬傷の男は声を出さずに笑った。
「そりゃそうだ」

 万全は思い切って聞いた。

「あの……僕たちどこへ行くんですか?貴方たちはどなたですか?」
「行けばわかる。大人しくしてりゃあ何もしねえよ」

 しばらくして、3メートル近い塀に囲まれた屋敷に到着した。

 鉄製の大きな門が電動で開き、万全たちを乗せた車は中に吸い込まれていった。

 車から降ろされた二人は、伊能と土岐の姿を見てびっくりした。
 伊能たちも屈強なヤクザたちに囲まれていた。

 伊能の顔は強張っていた。
 土岐は相変わらず無表情だ。

 それにしても見渡す限りおびただしい数のヤクザたちがいた。
 ざっと100人近くいただろう。

 そしてやはりヤクザに両脇を抱えられてきた人物を見て、万全は思わず声を上げた。

「須賀さんもですか!」
 
 
 ~つづく

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コメント

2、3行に分けて、
短い文体が、とても読みやすいですね。

ところで、万全が合気道の
日本選手権を取ったとは、意外でした。

投稿: ドスコイ | 2008年1月 5日 (土) 04時53分

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