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35 最重要会議

 夕食の間に、二宮がタケトとの面会の様子を語った。

「傷の具合はどうなんだ?」
 伊能が自分のグラスにビールを注ぎながら訊いた。

 須賀と土岐と伊能はビールを飲んでいる。

 二宮と万全はまるっきり酒を飲まない。
 万全はいつでも甘いアイスミルクティを飲んでいる。

 食事が和風でもお構いなしである。
 朝食のときには、納豆でご飯を食べながら飲んでいた。

「全治1ヶ月と言われたそうです。すごく痛そうでしたけどね」

「そうかあ……かわいそうに……早く良くなってほしいね」
 実に感情のこもった声で言ったのは万全だ。

 伊能は思わずビールを吹きだしそうになった。

 万全が二宮の話の間中、一度も顔を上げずに、焼いた秋刀魚の骨と皮を丹念に取り除いているのを見ていたからだ。

 まるで困難な手術を行っている外科医のようだと思った。額にはじんわりと汗までにじんでいる。
 皿の隅にそれらが丁寧に積上げられている。

 どう見ても、万全の関心のほとんどが秋刀魚に向けられていたのは明らかだ。

 一仕事終えたような満足げな表情で、万全は秋刀魚を食べながら、ミルクティーを美味そうに飲んでいる。

 伊能がからかうような口調で言った。
「万全、魚の骨の数は数えないのか?それからなあ、秋刀魚は皮がうまいんだぞ」

 夕食前まで、万全は異能力による{ブラジャー外し}で抜け落ちた毛髪を、全部拾い集めて数え、几帳面に手帳にメモしていた。

 それをからかわれたと思ったのか、万全は小さな口を尖らせた。ついでにぶっとい眉毛を逆立てた。

「焼き魚の皮を食べてはいけない、癌になる。癌で死んだおばあちゃんの遺言です。それから抜け毛の数を調べて、凄いことがわかりました」

「ほう、どんなこと?」
 土岐がわずかに関心をしめした。

「ティッシュを浮かせると平均して約200本の毛が抜けます。電燈の紐を回すと約300本。ブラ外しは……」

 万全が得意げな顔で皆を見渡した。
「なんと800本です!」

 誰もあまり感心したような顔をしないので、万全の口調に力がこもった。

「つまり、使った能力の大きさによって、抜け毛の数が変わるんです。力の大きさと代償の大きさは比例するんです」

「それより、あと100回くらいブラジャーを外したら、お前はつるっ禿げになるってことが問題じゃないの」

 伊能の言葉に、万全が憤然として箸を置いた。
「い、伊能さん!つるっ禿げとはひどいじゃないですか。僕が一番気にしていることを……そうならないために、日夜必死で髪型を改良しているのに……」
 万全の小さな瞳が心なしか潤んでいた。

「改良って……まだ変えるつもりなんですか?」
 二宮が仰天したような声を出す。

 万全は二宮を見て当たり前だという顔をした。
 どうも典型的な、上に弱く下には強いタイプらしい。

「そりゃそうだよ。普通の髪型のときは、今の二倍抜けたからね」

「でも改良のための実験で、十倍くらい抜けてるんじゃないのか」
 伊能の軽妙な突っ込みに万全の頬がぷっと膨らむ。

 須賀が大きな咳払いをした。
「さて皆さん、大体食事も終わりのようじゃの。夕食後は別室で皆さんに相談したいことがあるので、一服したら集まってくだされ。希君が言うには、テロと戦うために、もっとも重要なことを決める会議だそうじゃ」

 全員が真剣な表情になって肯いた。


 1時間後、全員が指定された部屋に集合した。
 そこは近代的なオフィスの会議室のような部屋だった。

 長いテーブルと椅子が並べられ、ホワイトボードや、AV機器なども揃っている。

 全員が思い思いの場所に座った。
 伊能が席を決めるのを待っていたように、万全がそれと一番遠い席に座った。まだ少し口を尖らせている。

 テーブルの一番端で、須賀が一人で何度も肯いていた。
 希との会話をしているのかもしれない。

「お待たせしましたのじゃ。どうも年寄りは理解力が無くていかんのう。それでは皆さん、会議を始めます」
 須賀がそういって立ち上がった。

 ホワイトボードの前に立って、須賀が何かを書き始めた。

 書き終わると振り返って全員を見渡しながら、自分の書いた文字を手のひらでたたいた。

「最重要テーマとは、これですじゃ!」
 ホワイトボードには、江戸勘亭流(歌舞伎の看板などに使われる文字)のような書体でこう書かれていた。

 テーマ 船体名
 
 皆が怪訝な顔をした。

 それを見た須賀が、不安そうに自分の書いた文字を見つめた。
 なにやら一人で肯きはじめた。
 突然大きく肯いて、明るい顔になった。

「皆さん、申し訳ない。わしが字を間違えたのじゃ。どうも年寄りは仕方の無いものですじゃ。これではまるで呆け老人じゃのう」

 須賀は笑いながらさっき書いた字を消して新たに書き始めた。
 ちなみに須賀の言葉に笑ったものは誰もいない。

「さあ、これが一番重要だと希君は申しております。これが決まらなければ何も始まらない。それほど大事なこととはのう。わしも知らなかったことですじゃ」

 ホワイトボードに新しく書かれた文字を見て、「あっ」と土岐が真っ先に驚きの声を上げた。

 テーマ 戦隊名

 土岐は病院で見た希の姿を思い出していた。

 蒼ざめた顔で横たわる希の枕元には、5体の人形が希を守るように置かれていた。

 鮮やかな五色の人形たち。
 戦隊物のヒーロー達の人形だった。
 
 
 ~つづく

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コメント

新展開に、ぐいぐい引き込まれますね。
使った超能力に対して、
髪の毛を失う話は、妙に納得しました。

投稿: ドスコイ | 2008年2月21日 (木) 03時42分

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