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33 覚醒

 うぞぞぞぞぞぞと微かな音が響いてくる。

 くおぉぉぉぉぉぉぉぉと万全の食いしばった歯の間から呼吸が漏れる。

 万全の頭上に高々と結いあげられたバベルの塔が、ゆっくりと回転を始めた。

 二宮は帰ってくるなり、万全に手を引っ張られ、須賀邸の奥まったこの部屋に連れてこられた。

 凄い能力、と万全は言った。

 確かにサラマンダーで見た時よりも、バベルの塔の回転が複雑になっていた。

 ときに逆回転したり、身をよじるような悩ましげな動きを見せたりする。

 周りを見回すと、須賀は微笑を浮かべながら端然と座っていた。
 伊能は苦笑を浮かべながらそっぽを向いていた。
 土岐は……表情を変えずに煙草を吸っていた。

 万全の身体から、熱のような、オーラのようなものを感じて圧迫される。

――これは、ただ事ではない。
 二宮は思わず唾を飲み込んだ。

 そして、万全の両手が差しのべられた先、万全が異能力(ちから)を注ぎ込む先を見つめた。

 大型の液晶テレビがあった。

 まさかこれを持ち上げようというのか?新型とはいえ相当の重量があるはずだ。

 テレビでは夕方のニュースを放送していた。

――おっ、ボンボヤージ国武だ。

 二宮の目が思わずニュースキャスターの女性に引き寄せられた。
 外国人のような顔立ち、理知的な表情、あどけない笑顔、肉感的なボディのアンバランスさが人気の女子アナだ。

 いつしか万全のバベルの塔は崩れ去り、そこには万全という名前の一匹の落武者がいた。

――頭の真ん中の空き地がまた広くなってる……

 二宮が万全の頭の砂漠化を悲しんでいる間もなく、万全の髪の毛たちが天井目指して立ち上がり始めた。

 万全の目が異様な光を放ちだす。

 静寂が支配するなか、テレビの中のボンボヤージ国武のニュースを読むセクシーな声だけが響いていた。

 万全の伸ばした手の先で、指が怪しげな動きをした。
 二宮は子供のころに見た化け猫の映画を思い出した。
 確か化け猫が人間を操るときに、あんな手つきをしていた。
 はっとしてテレビに映るボンボヤージ国武を見た。

{アメリカ大統領選挙の有力候補は、あっ……失礼しました}

 モナリザのような不思議な微笑みを浮かべながら、ニュースを伝えていた国武の顔が一瞬ひきつったように見えた。

 原稿を読み違えたわけでもない。
 ほんの一瞬のことで気がつかない人も多かっただろう。
 すぐに立ち直った国武だが、それ以降様子がどこかぎこちなくなったように見えた。

 万全はとみると、力尽きたように両肩をがっくり落とし、汗にまみれた顔面に抜けた髪の毛がべったりと張り付いている。

 しかし眼光だけは15ラウンドを戦いきったボクサーのように輝き、口元には不敵な笑みさえ浮かべている。

「ば、万全さん、いったい何を?」

 二宮の問いに須賀が答えた。
「万全さんは精魂・毛髪尽き果てておりますのじゃ。代わってわしがお答えしましょう」

 須賀の重々しい声が響く。
「万全さんは素晴らしい偉業、異能力の可能性をわしらに見せてくれたのですじゃ」

「と、いいますと?」

「見えるものならば異能力(ちから)を届かせることができる。と、同時に見えない物にも、イメージさえ鮮明に浮かべられれば異能力(ちから)は届くということじゃ」

「どういうことですか?万全さんは何をしたんですか?」

「万全さんには隠れた一面があるのじゃ」

「あ、合気道の事ですか?」
 うんにゃと須賀は首を振った。

「万全さんは乳のヘチですじゃ」
「チチのヘチ?」

 息も絶え絶えの万全が必死の形相でかぶりを振った。
「お……おっぱいのフェチです……正確に言うとブラジャーのフェチです」

「おおそうじゃった。長年の修練の結果、万全さんは女性を見ればその乳バンド姿をイメージできるようになったのですじゃ!」

「はあ……」

 さっぱり理解できない二宮に、苛立ったように伊能が言った。
「ブラジャーを外したんだよ。コンサドーレ国武だっけ?」

「ボンボヤージ国武です」

「ああ、それのブラジャーのホックをはずしたんだ」

 万全が二宮を見て指を二本上げた。
「か、彼女Fカップなんで、ホック2個はずし……た!」
 万全はそう言ってにやりと笑うと、仰向けに横たわって荒い息をついた。

「す、すごいっすね……」
 二宮は正直言って、呆れた。

「二宮さんの報告は、夕食の席でゆっくりと聞きましょう。皆さんもそれぞれの異能力(ちから)の可能性を試してみてはどうじゃろう?」

 須賀の発言に、伊能が興味無さそうな顔で立ちあがった。

「しかし、ブラジャーのホックを外すってのはどうよ?痴漢の能力だよなあ。まあ、俺の能力も何の役にも立ちそうにはないがな。ちょっと庭でも散歩してくる」

 伊能が立ち去った後、しばらくすると庭の方から奇妙な声が聞こえてきた。

「ういいいいいいん。ういいいいいん」

 伊能が能力を発動したときの声だ。
 続いて罵詈雑言を喚き散らす声が聞こえてくる。

 須賀がにっこりと笑った。
「わしたちも頑張りましょう」
 
 
 ~つづく

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コメント

万全さんの超能力は凄い。
テレビの向こうにいる人にも
発揮できる処が凄いですね。

投稿: ドスコイ | 2008年2月13日 (水) 03時35分

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