39 色はどうする
須賀邸での最重要会議は、戦隊名を決めることから始まって、延々深夜まで続いた。
5時間以上の会議の中で、最も時間がかかったのが各自の色決めだった。
「ぼ、僕は子供のころから大きくなったらレッドになりたい、って決めてたんです。レッド以外なら僕はやらない……」
万全が目に涙を浮かべて主張した。
「お前なあ、子供のころはそうでも、大人になってもレッドがいいなんて奴いないぞ」
伊能のうんざりした声に、万全は唇を震わせて言い返した。
「僕は少年の心を持ったまま大人になったんです。伊能さんみたいな汚れた大人になりたくないです」
「少年の心をもったハゲ親父か……全然かっこよくないぞ」
伊能の言葉にいきり立つ万全をなだめるように、須賀が言った。
「それなら万全さんをレッドにしましょう。希君もそれでいいと言っています」
万全は急に上機嫌になった。
「伊能さんは何色ですか?ブルーとかイエローですかね?」
「俺は……ゴールドだな」
「……そんな色はないですよ」
「なんでないんだ?」
今度は伊能が不満げな顔をした。
「伊能さん、戦隊物って見たことあります?」
「ない、遊園地のアトラクションは見たことがあるけどな」
「とにかくゴールドはいません。正義の味方は金には無縁なんです」
「じゃあ、ブラックでいいや」
伊能は投げやりな口調で言った。
今度は二宮が口を出す。
「伊能さん、タケトをブラックにしましょうよ。いつも黒ずくめの恰好をしているし」
「じゃあ青でいいよ。青で」
「よし、伊能さんはブルーで決まり。タケトはブラックだね。須賀さん、それでいいですよね」
夜の早い須賀は、いつのまにかうたた寝をしている。
希が代わって話し始めた。
「いいと思いますよ」
希の出現に、土岐の目が輝いた。
「希君、大丈夫か?こんな時間だぞ。寝なくてもいいのか?」
「心配させてごめんなさい。僕に身体は無いんだけど、悪い奴に、そいつも僕と同じような意識体だと思うんだけど、何かを持っていかれた感じがするんだ。身体だったら、腕一本もがれたような感じかなあ。もしかするとテロ計画と関係あるかもしれない。あ、それから僕に睡眠は必要ないんです。本体は寝たままですけどね」
土岐は病院での希の姿を思い出したのか、また目が潤んでいる。
二宮が須賀(希)に向かって言った。
「土岐さんは何色でもいいんですよね?じゃ僕はイエローにします」
「分りました。じゃあ土岐さんはピンクですね」
「ピ、ピンク!」
土岐が驚いたような声を出したが、心配そうに見る須賀(希)を見て、苦い顔で黙りこんだ。
須賀が立ち上がり、ホワイトボードに向かって何か書き出した。
先ほどとは違って子供っぽい字だった。
異能戦隊 サラマンダー
隊長 須賀常太郎(長野希)
サラマンダーレッド 万全大力
サラマンダーブルー 伊能高忠
サラマンダーピンク 土岐明秀
サラマンダーイエロー 二宮 透
サラマンダーブラック 表野岳人(タケト)
書き終わって振り返った須賀の顔は、本当に嬉しそうだった。
80歳過ぎの老人とは思えない、子供の顔になっていた。
土岐はそれを見て「これで良かった」という風に何度も肯いた。
「万全、まさかコスチュームまで作るんじゃねえだろうな?」
伊能が心配そうに万全を見た。
こいつなら、やりかねないと心配になったのだ。
ところが万全は伊能の言葉を全く無視していた。
伊能は思わず声を荒げた。
「おい万全!なにシカトしてんだよ!」
万全は落ち着いた表情でゆっくりと伊能を見た。
「あ、僕に言ってたんですか。嫌だなあ、レッドって呼んでくださいよ、ブルー」
伊能は何も聞く気が無くなった。
「ところで希君、テロの計画ってどの程度分かっているの?」
土岐の質問に希は用意していた文書を皆に配った。
「ネット上に流出していたファイルは、計画の一部です。何重にもセキュリティがかけられたうえ、さらに暗号化されていました。もっともその事で僕の関心を引いて、結局解読されたわけです。それからファイルに破損している部分があって、そこだけはどうにも修復できませんでした。いま皆さんにお配りしたのは、解読できた部分です。僕なりの見解も付け加えてあります。まず、眼を通してください」
書類には次のような内容が書かれていた。
GB計画
調査事項
1 千代田区の昼間人口とその分布状態
2 対象の建物等のセキュリティや内部構造などの詳細な情報。
3 実行日の天候の予測(10月31日を中心に前後一週間の長期予報の調査)
4 被害が出始めてからの、政府の対応の予測。危機管理のシステムの評価。医療機関、警察、自衛隊等の動きと諸外国(特にアメリカ)の対応を予測。
5 致死率アップのためのGB強化
目標死者数 十万人
希の見解
・ファイルには難解な言葉(特に化学、医療分野)が多かった。
・首謀者は非常に理性的で知的レベルが高い。
・職業的テロリストではなく、高度な専門職(化学者、医学者等)ではないか。
・テロに使われるGBとは、おそらく生物、化学兵器の可能性が高い。実行日の天候を気にしていることとも符合する。
・テロ決行日は10月31日が第一候補、天候状態で前後一週間位のずれが生じる。
「まじかよ。誰かの悪戯じゃないの?」
伊能の言葉に須賀は頭を振った。
「ファイルにかけられていたセキュリティや暗号化技術は、国家機密レベルのものでした。冗談や悪戯ではないと思います」
「10月31日だったら、あと2週間しかない。さらに場合によっては1週間早まるわけか……」
伊能は腕を組んで考え込んだ。
「やっぱり警察に……」
万全が不安そうな顔で言いかけた。
すかさず、土岐が厳しい声を出した。
「無理だ。希君のことを話しただけで、追い払われるか、病院に措置入院させられるぞ」
伊能が顔を上げた。
「これだけの事をする気なら、一人では無理だろう。タケトを襲った奴は仲間かもしれない。サラマンダーが営業再開したってメールが来てたから、明日行ってみるよ。何か手掛かりがつかめるかもしれない。明日は皆何をする?」
「僕は明日病院に行って、パパとママを見たい」
「じゃ、俺も一緒に行くよ」
土岐がすぐに言った。
そして今まで誰にも言ってなかった事を付け加えた。
「一昨日、希君の病院に行っただろう。あそこは帝都大学の構内にあるんだが、帰るときふと凄まじい異臭を嗅いだんだ。すれ違った誰かの匂いか、残り香か分からないんだが……」
「どんな匂いですか?」
問いかけた伊能に土岐は自信のなさそうな顔になった。
「分らないんだ。嫌なというより、匂いに込められた激しい感情に押しつぶされるような気がした」
「どんな感情ですか?」
「とてつもない憎悪。そして同じくらいの哀しみかな。無差別テロなんて、あれ位の気持ちが無いと出来ないかもしれない。希君の考えだと、高度の専門職かもしれないわけだろ。あそこにはゴロゴロいるし、希君の護衛も兼ねて行ってみるよ」
「分りました。二宮は?」
「僕はタケトのところに行って、サラマンダー結成の話を報告してきます。きっと喜びますよ」
「じゃあ、万全と俺がサラマンダーに行こう。万全はどうせヒマだろう?」
万全は伊能を見もしない。
伊能は苦笑して言いなおした。
「じゃあ明日はレッドと俺がサラマンダーに行ってみよう。レッド、それでいいな?」
万全が満面の笑みで伊能に肯いた。
「僕はオッケーですよ、ブルー」
「頼むから他人の前で絶対にそれを言うな。マジで怒るぞ」
「分ってますよ、ブルー」
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コメント
いよいよ、
サラマンダーが発進しますね。
しかし、恐怖のテロ計画に、どうやって
立ち向かって行くか。
凄く期待しています。
投稿 ドスコイ | 2008年3月 5日 (水) 07時28分
おもしろーい!
ここまで一気読みしちゃいました。
テロと○○戦隊が同居してるのに違和感ないなんてすごいです。
続き楽しみにしています!
投稿 カモミール | 2008年3月 7日 (金) 17時22分