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45 いくつかの疑惑

「さて、明日に備えて早く休みたいところでしょうが、希君から少し話しあいたい事項があるようですじゃ」
 須賀はそう言うと、眼を閉じた。

 再び目が開いたとき、希の輝くような瞳が現れた。
 しかしその眼は涙に濡れている。

 まだ体のあちこちが痛むらしく、恐る恐ると言った様子で屈伸運動をしていた土岐が驚いて希に駆け寄った。
「どうした! 希君!」

「ごめんなさい……ごめんなさい……僕のせいでみんなを危険な目に……ごめんなさい」

 しゃくりあげる希を土岐が優しく抱きしめて頭を撫でた。
「希君は悪くない、悪くないでしゅよ」と繰り返す、土岐の顔も涙がだだ漏れしている。

 この場面を知らない人が見たら仰天するだろうな、と伊能は思っていた。

 子供のように泣きじゃくる爺さんを、強面で無表情な中年男が、こちらも泣きじゃくりながら抱きしめている。

 年寄りホモカップルの愁嘆場のように見えた。

 しばらくして、少し落ち着いたのか希が話し始めた。
「僕なりに一生懸命考えてみました。今回一番不思議なのは、どうして僕たちの行動をユキという人が知ることになったのかということです。先ほど須賀さんの部下から連絡がありました。徹底的に捜索したけれど、盗聴器は発見されなかったそうです」

「すると、須賀さんの部下が立ち聞きでもしていない限り、俺たちの誰かから情報が漏れた、ってことか……」
 伊能が呟いた。

「考えたくはないが……俺たちの中に裏切り者がいる……」

「いや、それなら俺の鼻が嗅ぎつけるはずだ」
 土岐が断定するように言った。
「裏切り、内通といった思惑を持っていれば、必ず嗅げる。もっとも二宮みたいにもともと自我が希薄な奴の匂いは嗅ぎにくいがな……」

「二宮……!」
 全員が思わず顔を見合わせた。

「皆さんが今思ったことを実は僕も疑ったんです。もし間違っていたら二宮さんには本当に申し訳ないんだけど……」

「いや、今はそんな事を言っている場合じゃない。あらゆる可能性を考えてみるべきだ」
 伊能の言葉に土岐も肯いた。

 万全はなにか釈然としない様子だ。

「さっき新宿署のコンピュータに侵入してサラマンダーで起きた二つの事件の調書を読んできました。最初の事件、若い女性が首を切られてシャワー室で殺された事件ですね。これはストレートレイザーと名乗る人物がネットで犯行声明らしきものを出しています。このときサラマンダーにいたのは僕たちのなかでは、万全さん、二宮さん、タケトさんの三人です。警察が店の客に事情を聴き始めた頃には万全さんは出勤していませんでした。タケトさんの調書だけが残っています。二宮さんは異能力のせいか調書を取られていません。二番目の事件、タケトさんが襲われた事件では警察の動きも速く、ほとんど間をおかずに、店の客全員からの調書を取っています。このときも店にいたのは、万全さん、二宮さん、タケトさんの3人です。タケトさんは被害者。万全さんの調書はあります。このときも二宮さんは取り調べを逃れています」

「だがタケトの話だと犯人は女だ。俺はそれがユキという女だと思っているが……」

 伊能の言葉に希は肯いた。
「二宮さんの顔を思い浮かべて下さい。非常に女性的な顔をしていませんか?」

 それぞれの顔に驚きの表情が浮かんだ。
「女装?」

「二重人格かもしれんな……男の人格と、女の人格を持っているのかもしれん。男のときは二宮で、女のときはユキか……それならば、俺が当初感じていた異臭が突然消えた理由もわかる」

「あくまで、これは可能性です。もし間違っていたら、僕はなんといって謝ったらいいのか……」
 一同を重苦しい沈黙が支配した。

 それを打ち破るように万全が勢いよく立ちあがって、憤懣やるかたのない調子で発言した。
「皆は大事な事を忘れている!」

 全員が背筋を伸ばして万全を見つめた。
 万全は大きく咳払いを一つして続けた。

「万全じゃなくてレッド! 伊能じゃなくてブルー! 土岐じゃなくてピンク! 二宮じゃなくてイエロー! タケトじゃなくてブラック! 希君でも須賀さんでもなく隊長、でしょ!」

「ば、いやレッド……」

 こうして話し合いは二宮に対する疑惑と、万全のIQに対する疑惑を生んで終了した。

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コメント

この疑惑は怖いですね。
想像もしていなかった、新展開です。

投稿: ドスコイ | 2008年3月27日 (木) 08時16分

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