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43 シャイターン

 肉体の苦痛になら、いくらでも耐えられる。
 所詮死ぬまでの僅かな時間だ。

――シェイダはそう考えていた。
 だからヤクザたちにどんなに責め苛まれても、うめき声すら漏らさずに耐えた。

 元の人相が分らなくなるほど、顔が蒼黒く腫れあがり、口から折れた歯と血を吐きながらも、眼だけは侮蔑の光を湛えて須賀の部下たちを見据えていた。

 何度か気を失い、そのたびに水をかけられ目覚めさせられた。

 どれだけの時間が経ったのか、気がつくと目の前に一人の老人がいた。

 老人は右手に長い刃物をぶら下げていた。
 厳しい眼でシェイダを見ている。

――これがスガか……
 小柄な老人は異様な迫力を発していた。

 異教徒のなかでもさらにクズ、ヤクザのボスなどに屈してなるものか、シェイダは血の混じった唾を老人に吐きつけた。

 老人はそれを避けようともしなかった。
「こやつはいくら責めても無駄じゃな……」
 老人はそう呟くとゆっくりと刃物を振りかぶった。

――これで終わる……
 シェイダは思わず微笑んだ。

「須賀さん」
 突然二人の男が入ってきた。

 背の高い男は、シェイダの顔をじっと見つめている。
 しかしシェイダはその後ろの男から目が離せなかった。

「Azrael!」
 シェイダは初めて恐怖を感じて呟いた。

 イスラムの死の天使がそこにいた。
 バベルの塔を頭に戴いている。

 小さな男は奇妙な表情を浮かべてシェイダを見ていた。
 シェイダをじっと見つめていた背の高い男が、死の天使に何事か囁いた。

 老人が一歩下がり、代って死の天使がシェイダの前に立った。

 うぞぞぞぞぞぞぞぞと微かな音が響いてくる。
 くおぉぉぉぉぉぉぉぉと死の天使が呼吸を漏らす。

 異様な気配がシェイダを包み込む。
 シェイダは圧倒的な恐怖にとらわれた。

 バベルの塔がゆっくりと回転しはじめ、徐々にほどけていく。
 やがて禿げた頭頂部がむき出しになった。

「Zakkum!」
 それは地獄の果実に似ていた。

 さらに、髪の毛の1本1本が、邪悪な蛇のように立ち上がり始めた。

「シャイターン!」
 シェイダは叫んだ。

 シャイターンとはキリスト教で言うサタンのことだ。
 死をもって終わる苦痛ならば耐えられるが、死後も永遠に続く苦痛には耐えられない。

「許してくれ。なんでも話す。シャイターンを俺の前から遠ざけてくれ」

 背の高い男と、シャイターンは部屋を出て行った。
 抜け殻のようになったシェイダは、知っていることのすべてを語り始めた。

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コメント

>死をもって終わる苦痛ならば耐えられるが、死後も永遠に続く苦痛には耐えられない。
本当にそうですよね。
死後も永遠に続く苦痛は耐えられません。
凄い恐怖です。

投稿: ドスコイ | 2008年3月21日 (金) 04時47分

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