40 襲撃――そして死
翌日、朝食を終えてそれぞれが外出の準備をしているときに、須賀の若い衆が強張った顔で須賀に何か耳打ちした。
「持ってこい」
須賀の顔がひどい苦痛を感じているように歪んだ。
若い衆が捧げるように持ってきた盆の上には、金色に光るバッジと小さなガラスの瓶が置かれていた。
何気なく瓶を覗き込んだ万全が悲鳴を上げた。
「ゆ、ゆ、指いいいい!」
須賀は沈痛な面持ちで小さな瓶から眼を背けた。
「伊吹……馬鹿な奴だ……」
それからしばらくの間、須賀は縁側に座り込んでじっと庭を眺め続けた。
誰も声をかけられない雰囲気だった。
伊能と万全はサラマンダーに、二宮はタケトの所に、そっと出かけて行った。
土岐が須賀の横に座った。
「伊吹さん……勘弁してやれないの?」
須賀は悲しげに首を振った。
「伊吹はわしの子供ですじゃ。子供の中でも最も出来が悪い……真っ直ぐな気性だけが取り柄の、わしにそっくりな不細工なやくざ者でした。これで良かったとわしは思っとります。やくざを続けていたら、あいつはいつか……わしの為に命を落とす……」
庭の一角に咲き乱れる花を、須賀が見ていることに土岐は気がついた。
「随分いろんな花が咲いていますね」
須賀がかすかに微笑んだ。
「わしが花を好きじゃといったら、伊吹の奴が手当たり次第に花を植えたんです。若い者も使わずに、全部自分でね。さあ、希君もお待ちかねじゃ。わしらも出かけましょうか」
この朝、新宿のビジネスホテルで待機していたシェイダの襲撃チームにYUKIからのメールが入った。
{襲撃場所 帝都大学病院門から病院入口に続くけやき並木。
襲撃時間 午前10時から11時。
襲撃対象 須賀常太郎及び同行者(おそらく1名)
添付ファイル 須賀常太郎の写真}
襲撃チームの4人はそれぞれが使い慣れた拳銃を用意していた。
射撃の腕は4人とも軍で鍛えられている。
須賀がヤクザの親分なので、ヤクザ同士の抗争に見せかけるつもりであった。
帝都大学は広大な敷地の中に4か所の門があった。
病院利用者は、病院門から入り50メートルほど続くけやき並木を通って病院に行く。
並木道にはまばらにベンチが置かれていた。
襲撃チームは二手に分かれ、門に近いベンチに二人、病院に近いベンチに二人が陣取った。
須賀が両者の間に入ったとき、挟み撃ちできる必殺の陣形だった。
須賀と一緒にけやき並木に入ったとき、土岐の鼻が何か異臭を感じた。
辺りを見回すと、ベンチにホームレスらしき男がいた。
あまりにも薄汚れたその風体に、匂いの元はそれかと思った。
足がよろけがちな須賀を支えるように歩いていると、激烈な悪臭が前後から迫ってきた。
考える間もなかった。
とっさに土岐は須賀の身体を抱えて横に飛んだ。
前後からパンパンパンと乾いた銃声が響いた。
――土岐の異能が発動した。
極限まで時間の体感速度が遅くなった土岐の目に入ってきたもの。
前方にいる二人の男。
それぞれの拳銃から発射された金色に光る4発の銃弾。
2発はゆっくりと回転しながら須賀の頭部へ。
2発は須賀の胸部へ真っすぐに飛んでくる。
振り返るとそこにも二人の男。
やはり飛んでくる4発の銃弾。
2発は須賀の胸部へ。
2発は土岐の頭部へ。
銃弾の軌道を見極め、須賀と自分の位置を動かす。
肉体の限界を超えた動きに激しい苦痛を覚える。
ゆっくりと全ての銃弾がかすめ通って行く。
襲撃者の顔が驚きにゆがみ、再び銃口を向けてくる。
ホームレスの男が、須賀に飛びかかってくる。
再び放たれた4発の銃弾がホームレスの身体に突き刺さる。
喚き声が聞こえてくる。
須賀と土岐を送ってきた若い衆が、襲撃者に拳銃を乱射している。
襲撃者たちが一斉に逃げだす。
――時間が普通の速度に戻った。
「大丈夫ですか?」
土岐の問いかけに、須賀は答えなかった。
ホームレスの血まみれの身体を抱きかかえて嗚咽していた。
「伊吹!伊吹!」
ホームレスの力なく垂れ下った左手の小指には、そこだけ真新しい包帯が巻かれていた。
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コメント
これは意外でした。
ホームレスが伊吹だったとは。
凄い急展開に驚いています。
投稿 ドスコイ | 2008年3月 7日 (金) 19時43分
上村先生こんにちは
上村先生
が隠されてます


今回も さすが
色んなサプライズ
伊吹と須賀老人の親子愛・・ちょっと泣けます
早く次が読みたいです
投稿 Honey | 2008年3月 8日 (土) 12時21分