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44 ゲーム

「伊能さんのおかげで奴から情報を聞きだせました。この通りですじゃ」
 須賀は伊能に深々と一礼した。

 それから少し不思議そうな顔になって伊能に聞いた。
「ところでお二人はなぜここに?こんな現場は見せたくなかったのじゃが」

 伊能はシェイダの監禁されている部屋のほうをちらりと見てから答えた。

「土岐さんから、須賀さんがあの男を殺すつもりだと聞きましてね。土岐さんはまだ体が痛いみたいだし、取りあえずそれだけは止めようと思って万全と二人で来ました」

「わしの部下がよう納得しましたな」

「説得するのはプロですから」
 ここで笑えたらいいのに、と伊能は思った。

 それから万全を指差して、こう付け加えた。
「それから俺のおかげじゃないですよ。万全の異能力のおかげです」

「万全じゃなくて、レッド……」
 万全がそっぽを向いて呟いた。

 伊能は顔を歪めて須賀を見た。苦笑のつもりだった。
「部屋に入ったとき、あのシェイダという男がレッドを見て怯えたんです。理由は分かりませんがね……それでひょっとしたらと思って、ば、いやレッドに言ったんです」

「ほう、なんと?」

「あの男は女物の下着を付けているらしいぞ。ブラジャーをはずしてやれ」

 須賀はそれを聞いて思わず吹き出した。
 万全は憮然たる表情だ。

 ようやく笑いやんだ須賀が、感謝のこもった目で伊能と万全を見つめた。

「あの男の始末は、奴を使っておった神州連合にまかせることにしました。わしは怒りのあまり、希君のことを忘れておりました。わしが人を殺すところなど、どんな理由があっても子供に見せるわけにはいきませんからのう」

 須賀の目に穏やかな光が戻っているのを見て、伊能はほっとした。
「それで、須賀さん、どんなことが分かりましたか?」

 須賀は小さな紙片を伊能に渡した。
「わしの暗殺を依頼した者の携帯電話の番号ですじゃ。『ゆき』という名前の女らしい。奴とは麻薬の取引で関係していたそうじゃ。奴はテロ計画についてまったく知らないと言っておる」

 万全が勢い込んでいった。
「それなら、その電話の持ち主を調べてもらいましょうよ!」

「無理だな」
 そっけなく伊能が答える。

「身元の割れるようなケータイは使わないだろう……」
 須賀も同意するように肯いている。

「さて、どうしたものかのう……」
 沈黙が支配した。

 伊能が自分の携帯電話を取り出した。
 紙片の番号を入力していく。

「い、伊能さん?」
「ブ、ブルー?」
 須賀と万全が驚いて声を上げた。

 伊能は携帯電話を耳に当てて、須賀たちを見た。
「考えていても始まらない。まあおそらく、出ないでしょうがね」

 突然、伊能の表情が緊張に強張った。
 携帯電話のマイクボタンを押して、通話が皆に聞こえるようにする。

 伊能の携帯電話から、女の声が響いてきた。

「はじめまして。あら、伊能さんね、この番号は?」
 女の声はからかうような調子を含んでいた。

「何でも知っているんだな。あんたがユキさんか?」

「そう。あなた達の知りたいことの全てを知っている女、YUKIです」

「あんた……」
 意外な展開に伊能は絶句した。

 電話から女の笑い声が響いてくる。
「もうひとつ言えば、あなた方のお仲間、二宮さんを預かっているのも私ですわ。首が細くて、胴体から切り離すのが楽そうね」

 伊能は須賀を見た。
 須賀は沈痛な表情で頭を振った。
「二宮さんはまだ見つかっておりません……」

 その様子を見ていたかのように、女は話を続けた。
「分かったでしょう? 坊やを助けたい? それなら私とゲームをしない?」

「どういうことだ?」

「私はサラマンダーにいるわ。私を捕まえられたらあなた達の勝ち。ただし、ヤクザ共は一人も使っちゃ駄目よ。外に待機させただけでもゲームはおしまい。あなた方は何も知ることができずに、坊やの首だけを受け取ることになる」

「なぜ、そんなゲームを?」

「プライドよ! 須賀っていう爺さんを殺さないと気が済まないの。いいこと? だから必ず須賀も一緒に来るのよ。他の異能力者は何人来てもいいけどね」

「で、いつから?」

「明日の夜12時から、朝の6時まで。あなた達が私を捕まえるか、私が須賀を殺すかのゲーム。理解した?」

 須賀が伊能から電話を奪った。
「よかろう。ただし決着がつくまで、一切、二宮さんに危害は加えないと約束してもらう」

「わかったわ。じゃあ明日」
 女は笑いながら電話を切った。

 三人とも黙って携帯電話を見つめ続けた。
 また、女の笑い声が聞こえてくるような気がしたからだ。

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コメント

YUKIは怖いですね。
ヤクザを使わずに、YUKIに対抗するのは
むずかしそうですね。

投稿: スー | 2008年3月25日 (火) 09時54分

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