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41 潜行

 須賀は伊吹の身体をそっと横たえると、静かに立ち上がった。
 須賀の全身から立ちこめる、猛烈な怒りと悲しみの匂いに、土岐は思わず一歩後ろに下がった。

 同時に土岐の全身を激痛が走った。
 銃弾をかわす際に、人間の限界を超えた動きをしたせいか、僅かに動いても、すべての神経に衝撃が走る。

「土岐さん、大丈夫ですかな? 貴方のおかげで助かりました。お礼は後ほどゆっくりと……」
 よろめく土岐を支えながら、須賀は厳しい目で辺りを見回した。

 いつの間にか、須賀の部下たちが4人拳銃を抜いて集まっていた。
 襲撃者の一人が、足に銃弾を受けたらしく血を流しながら倒れていた。

「そやつを連れて来い。全てを聞き出すのじゃ。わしは柄をかわす(身柄を隠す)ぞ。今、警察で余計な時間を取られたくないからのう」

 須賀はちらりと伊吹の遺体に目をやり、僅かの間目を瞑り沈黙した。
 須賀は再び目を開いて、静かな口調で言った。
「組に伝えよ。潜れ、とな」

 そして土岐の身体を支えながら、車に向かった。
 パトカーのサイレンがけたたましく近づいてくる。

 逃げ遅れた襲撃者は、ガムテープで口をふさがれ、伊吹の遺体とともに、車のトランクに押し込められた。

 車の中でも、須賀の指令は矢継ぎ早に発せられた。

「本部で盗聴器が仕掛けられていないか、特にわしらの居住していた部屋と会議室を中心にくまなく調べるのじゃ」

「サラマンダーに行った伊能さん達と、警察病院に行った二宮さんに護衛を送れ。見つけたら、わしらの新しい潜伏場所に連れてくるのじゃ」

「どうも外国人のようじゃが、あの男の知っていることは全て吐かせい。本人の素性、組織であればその実態、ボスの名前、依頼者の名前、襲撃の具体的な指示をした者、全てを聞き出せ」

「伊吹の遺体は丁重に葬れ。そうじゃ、伊吹の作った花壇の辺りに葬るのが良かろう。いずれ時が来れば改めて葬儀等執り行うことになるじゃろう……」

「医者を呼んでおけ。土岐さんの身体を診てもらう」

 僅かに顔をしかめながら、じっと座っていた土岐が須賀の手を軽く押さえた。
「いや、須賀さん、俺なら大丈夫です。しばらくすれば治まるはずです」

「しかし土岐さんの異能力も凄いものですなあ」

「いや……俺もびっくりしました。今までマージャンのイカサマでしか使ったことがないもんで……」
 土岐は笑って見せようとしたが、傷みに顔を歪めただけだった。

「それより須賀さん、さっき組に、潜れ、と指示していましたが、どういうことなんですか?」

「臨戦態勢をとれ、ということですじゃ。こういった稼業ですから、いつ何時、何が起きるかわかりません。組員十人に一人の割合で、実戦部隊を選抜してあります。潜れと指令すると、実戦部隊は地下に潜って指示を待つ。警察が大規模な取り締まりに入っても、彼らの動きに支障がないよう、資金面を含めて他の9人が支えていく体制ですじゃ」

「十人に一人……愛桜連合って何人くらいの組員がいるんですか?」

「約一万人ですかな」

「と、すると約千人の実戦部隊……」

「わしはな、土岐さん。今回のことはチャンスだと思っておるのじゃ。末端にせよ、敵の正体につながる者を捕らえた。伊吹の死を無駄にはしたくない。わしは全力を挙げて、敵を叩き潰すつもりじゃ」

「全国から集まってくるわけですね?」

「今日中には全員が都内に入るでしょう。まずわしらを襲った連中をひっとらえましょう」

 須賀の眼はらんらんと輝いている。
 背筋もピンと伸びて、言葉にはみなぎるような力があった。

 土岐は見知らぬ人間の隣にいるように感じた。
 それは伝説の侠客、須賀常太郎の真の姿だった。

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