49 アシッドハウス(2)
万全は蛙を見ていた。
緑色の、子供の握りこぶしくらいの蛙を見ていた。
小学校2年か3年のとき、夏休みに行った田舎で捕まえた蛙だ。
愛くるしい目をした蛙は、万全が苦労して捕まえた小虫をよく食べた。
友達のいない万全にとって唯一の友だった。
小さな川のほとりにしゃがんで、万全は「ケロ」と名づけた蛙を水に漬けてやっていた。
ケロは気持ちよさそうに目を瞑っていた。
水面に影が差し、万全はいきなりケロを奪われた。
意地悪な顔をした数人の田舎の子供たちが集まっていた。
6年生くらいの、にきび面の大きな男の子が、万全を憎々しげに睨みながらケロを握り締めていた。
「返せよ!ケロを返せよ!」
背の小さい万全が叫びながら飛びつくが、どうしても手が届かない。
「なんだべ。こいつ蛙に名前付けてっぞ。馬鹿じゃないべか」
「返せ!返せ!」
必死に飛びついてくる万全をうるさそうに振り払い、にきび面は仲間の少年の麦藁帽から麦わらを一本抜いてケロの肛門に差し込んだ。
万全は一瞬きょとんとした。
何をする気なのか見当もつかなかったのだ。
「蛙との遊び方、おらが教えてやっぺ」
体に息を吹き込まれて、ケロは信じられないほど大きく膨らんだ。
目玉も舌も苦しげに飛び出している。
にきび面は風船のようになったケロを思い切り地面にたたきつけた。
破裂音がした。
後は何も覚えていない。
――超能力を身につけよう。
布団の中で泣きながら決意したことだけを覚えている。
そのケロが、気がつくと万全の前にちょこんと座っている。
土岐は失った子供を見ていた。
かつて一度結婚をした。
かつて一人子供がいた。
利発な可愛い男の子は、不幸な事故で死んだ。
3才だった。
土岐の目の前に、変わらぬ姿のその子が立っていた。
須賀は戦場にいた。
弾薬の尽きた高射砲部隊の中隊長として、敵機の飛び交う幻の空を見上げていた。
伊能は大勢の二宮を見ていた。
どの二宮も寂しげな顔をしていた。
YUKIは全員を見ていた。
YUKIの異能力「アシッドハウス」によって、それぞれの幻覚のなかに沈み込んでいく4人を愉快そうに見ていた。
――無様な連中だ。
YUKIの発する体臭に含まれる、LSD25に似た強い幻覚作用をもたらす成分の虜になっている4人の男たちをあざ笑った。
――もはや彼らが私の姿を見ることはない。
YUKIは右手の爪を見つめた。
真っ赤に塗られた長い付け爪だ。
特殊素材で作られたその爪は、剃刀以上の切れ味をもつ。
さて、そろそろと思ったとき、伊能が立ち上がった。
目はうつろで何も見ていないようだ。
伊能は機械人形のようにギクシャクした動きで、仲間たちに武器のようなものを押し当てている。
小さな悲鳴が聞こえてくる。
――ついに仲間を攻撃してる。馬鹿ね。
YUKIは須賀に向かって真っ直ぐに歩き始めた。
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コメント
YUKIの超能力は凄いですね。
これには、驚ろきました。
こんな超能力は、聞いたことがありません。
投稿 ドスコイ | 2008年4月11日 (金) 18時31分