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59 伊能の脱ヤクザ講座

 伊能はメモ用紙に何かを書き始めた。
 時折、宙を睨んで考え込んでいる。

「須賀さん、変身させる人たちに、自分の服のサイズ、ウエストサイズ、靴のサイズを書かせてください」

 伊能の言葉に、男たちは自分のサイズをメモ用紙に書いた。
 伊能は自分が書いたメモと、男たちのサイズが書いてあるメモを一緒にタケトに渡した。

 タケトはメモを見てすぐに伊能の考えが理解できたらしく「そっかー、なるほどねえ」と目を輝かせて微笑んだ。

「買物のお金は須賀さんから貰っていけ」

 伊能の言葉に須賀は頷いた。
「4人分ですから、50万ほど持たせれば足りますでしょうか?」
 伊能は「とんでもない」と言って手を振った。

「その10分の1、5万円でおつりがくるでしょう。すみませんが、誰かに車を運転してもらえますか? 行先はタケトが心得ていますから」

 男たちの一人がタケトのそばに行った。
 一番大柄で悪役レスラーのように凶悪な人相の男だ。

「自分がお供させて頂きます」
 タケトの前で一度、直立不動の体勢になってから、うやうやしく一礼した。

 タケトはきまり悪げな顔で、頭をかきながら「ども、こちらこそ、かたじけない」と変な挨拶をした。

 タケトたちが買い物に出かけると、須賀はひどく疲れた様子で立ち上がり「失礼して一休みさせてもらいます。タケトさんがお帰りになったら起してくだされ」と言って寝室に入って行った。

 いつの間にか万全はソファーに座ったままうとうとと寝込んでいる。土岐は希のことが気にかかる様子で、ひっきりなしに煙草を吸っていた。

 伊能は真澄のことを考えた。
 どうして真澄は怒ったのだろう?
 とにかく不本意ながら、真澄の希望する離婚を承諾したのにもかかわらず……

――由美はどうしているだろうか?もう会えないのだろうか?
 そんなことを考えているうちに伊能も眠りに落ちてしまった。

 目覚めたのは2時間ほど経った頃だった。
 タケトの元気な「ただいまー」という声で起きたのだ。
 見ると土岐も疲れた顔で眠り込んでいた。

「買えたか?」
 タケトたちは二人とも両手一杯の荷物を抱えていた。
 タケトはにっこり笑ってVサインを出した。
「ばっちりです!」

「よし! じゃあ空いている部屋で変身タイムだ!」
 伊能は眠っている万全や土岐はそのままにして、タケトと4人の男たちを連れて空き部屋に入って行った。

――20分後。
 変身を終えた男たちを、伊能は満足げに眺めていた。
 男たちはお互いを見て呆気にとられている。

「誰か須賀さんを起こしに行ってください」

 伊能の言葉に、リーダー格の男が肯いた。
「自分が行ってまいります」

 男が「失礼いたします」と言って須賀の寝室に入って行った。

 一瞬の間をおいて須賀の叫び声が聞こえた。
「く、曲者じゃあ! であえ! であえい!」

 時代劇フアンの須賀らしいセリフだった。

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