55 五里霧中そして四面楚歌(2)
須賀の部下たちが懸命に捜索したが、YUKIを見つけることは出来なかった。
希の状態はかなり悪いらしく、須賀自身もひどく衰弱していた。
須賀は伊能達の強い勧めに渋々従って横になったが、すぐに眠りに落ちた。頬が落ち窪んで、まるで死人のような寝顔だと伊能は思った。
伊能達はなんとなく、居間に集まっていた。
テレビの深夜放送は、通信販売の番組を垂れ流している。
煩わしいので、伊能はリモコンでミュートにした。
誰も口を開かなかった。
万全は眼をしょぼしょぼさせて、皆の様子をうかがっている。
土岐はくわえ煙草でダイスを転がしていた。
伊能は時おり思い出したようにYUKIの携帯に電話していたが、全くつながる気配はなかった。
暗い眼でひたすらダイスを転がしている土岐がぽつりと呟いた。
「もう駄目だな……オーラスだ」
誰も返事はしなかった。
万全の肩ががっくりと落ちた。
伊能はため息を漏らした。
「俺たちの持っている情報を警察に渡しましょう。もちろん匿名で。あとは警察の判断次第。残念だけど仕方がないでしょう」
伊能の言葉に、土岐は目を細めた。煙が目に沁みたのかもしれない。
「俺が心配なのは、希君だ。存在そのものが減ってきているって、どういうことだ? あの子が消えたら、本体はどうなる? 死んじゃうのか? とにかく、これ以上希君の力は絶対に使えないな」
「やっぱり二宮君は、あの化け物だったのかな……」
万全が悲しげな声を出した。
「そのことは今考えても無駄だ。すべて憶測にすぎないからな」
伊能がそう言って、ふとテレビの方を見た。
須賀の顔が大写しになっていた。
慌ててリモコンを操作して音声を出す。
早朝のニュース番組らしい。
「昨夜12時頃、新宿のネットカフェ『サラマンダー』で客が刃物を持って暴れ、従業員一人が顔に大けがを負いました。この店では今月に入ってから殺人事件や殺人未遂事件が起きており、関連を慎重に調べております。なお、今回の事件に関わっていると見られる数人の男が指名手配されました。須賀常太郎(83才、暴力団愛桜連合総長)、伊能高忠(35才、職業不詳)、土岐明秀(年齢、職業不詳)、万全大力(25才、会社員)……」
警察で取り調べを受けた時に撮られた万全の写真と、物凄く恐ろしい顔の須賀の写真がアップになった。
伊能と土岐の写真は無い。
「あれか! 入店のときに書かされたカード。畜生! 偽名にしておけばよかった」
伊能が悔しがっていると、万全がふらふらと立ち上がった。
目がうつろになっている。
「あわわわわ……正義の味方どころか、犯罪者になっちゃったあ……もう駄目だあ、会社も首だあ、結婚もできない、親兄弟親戚が泣く……」
「おい、万全!」
伊能が心配して声をかけると、万全ははっとしたように体を震わせた。何か重大な事に気がついたらしい。
「け、け、け」
「けけけ?」
「刑務所……僕、刑務所に入るんだ! 鬼畜のような連中の慰み者になるんだあああ!」
「おい! 万全、ちょっと落ち着け」
伊能の言葉はまるで聞こえていないようだ。
亡霊のように浴室に向かって歩いていく。
「死ぬ……絶対に死ぬ、今死ぬ、すぐ死ぬ、断固として死ぬ!」
万全は浴室に入って、内側から鍵を閉めた。
「おい! マジかよ! 万全、ここを開けろ!」
伊能がドアをどんどん叩いた。
身の毛のよだつような叫び声が中から聞こえてくる。
異変に気がついた須賀の部下が、ドアを蹴り破った。
「万全! 大丈夫か?」
飛び込んだ伊能は万全の顔を見て絶句した。
口のまわりがデコレーションケーキのようになっている。
「万全、お前何をした?」
「歯磨きのチューブを一本飲めば死ぬって言うから……」
「誰が言った?」
「小学校の時、隣の席の岡田君が……」
伊能は万全の肩を叩いた。
「あのなあ、おそらくその岡田君はな……馬鹿だぜ」
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コメント
口のまわりがデコレーションケーキのようになっている。
これには、大爆笑しました。
しかし、警察から指名手配されたら、
異能力戦隊?サラマンダーは、
これからが大変ですね。
投稿 ドスコイ | 2008年5月 3日 (土) 08時34分
万全さん・・・
もう、大爆笑でした。
かわいいなぁ、ほんとにもうっ。
投稿 カモミール | 2008年5月 3日 (土) 23時28分