71 異能戦隊サラマンダー
AM10:00
日比谷公園の7か所の入り口から警官隊が突入した。
通報によると須賀たちは大噴水あたりにいるらしい。
日比谷公会堂、大音楽堂、テニスコート、花壇や池の方向から、須賀一味を押し包むように突入した。
しかし、昼前の日比谷公園は閑散としていて、やけにカラスばかりが目に付いた。
須賀たちはどこにもいない。
肝心の大噴水では、特撮ヒーローショーが行われていた。
平日の昼間だというのに、オタク連中が集まっている。
「いい年して、こいつら働いてないのか?」
フル装備で汗だくになって走ってきた警官たちは、いまいましげに眺めていた。
ヒーローショーはオタクたちの人垣でほとんど見えない。時折、赤やピンクの衣装が見えるくらいだ。
「どうもガセ情報らしいな……畜生め! 人騒がせな野郎がいたもんだ」
ヘルメットを脱ぎながら、口惜しそうに吐き捨てた警官が、ショーの方を見て訝しげな顔になった。
「おい、このショーは何かおかしいぞ! どこにも看板がない。ポスターやチラシもない。大体ショーだというのに、音楽もないし司会者もいない。マイクすら無いじゃないか!」
その警官は緊張した表情になって、ショーの人だかりに向かって歩いて行った。
人垣の一番外側にいるオタクに声をかける。
やけにでかいオタクだった。
まるで格闘家のように獰猛な体つきに見えた。
しかし、服装が珍妙だった。
ど派手な緑色に光る、電飾付きのカエルの帽子を目深にかぶっている。
――よくこんな帽子をかぶれるもんだ。
内心呆れながらも、顔の汗をタオルで拭いながら、気安い調子で声をかけた。
「これは何のショーなんですか?」
カエル帽子の男は、こちらを振り返りもせずにぼそっと答えた。
「えーっと、確か落武者戦隊ハゲテンジャーかな」
そのドスのきいた声、喋り方をきいて警官は、改めて周りを見回した。
そこにいる全員が背を向けている。
しかし、全神経をこちらに対して研ぎ澄ましているのが分かった。
良く見ると、ジーンズに蛇皮の雪駄履きの男とか、首にも腕にもやたらに太いゴールドの鎖を巻いている男とか、なんかチグハグだった。
警官はさりげなく立ち去り、途方に暮れている上司に報告した。
「噴水のところにいるオタク連中は怪しいです。ひょっとすると、あれは全員がヤクザ者かもしれません。連中が輪になって取り囲んでいる中に須賀たちがいるんじゃないでしょうか」
AM10:00
法務省や検察庁、裁判所などが集中する霞が関1丁目。
街角に置かれた自販機の前で、二人の男が缶コーヒーを飲んでいた。ごく普通の勤め人に見えた。
10時になると男たちは時計を見ながら、ビジネスの約束でもあるかのようにそそくさと立ち去った。
空き缶を捨てる際、ゴミ箱の裏側に銀色の缶を隠すように置いた。
誰にも不審を抱かれることのない、自然な動作だった。
しかしカラスたちの眼は見ていた
。
ビルの上から、街路樹の枝から、カラスたちの数十個の眼が、男たちの行動を見逃さなかった。
置き去られた銀色の缶の周りに、カラスたちが数羽舞い降りてきて「ギョエーギョエー」と喧しく鳴き喚いた。
どこからか、別の二人の男が現れた。
銀色の缶を大きな魔法瓶のようなものに入れた。
一人の男がカラスたちに手をあげた。
「サンキュー、カア公」
伊能たちは極度に集中していた。
警官隊のことは完全に意識にない。
10時を過ぎてから矢継ぎ早に、回収成功の報告が入り始めた。
約10分の間に、15個が回収された。
カラスたちの活躍は思った以上だった。
半分以上がカラスのおかげだった。
AM10:10
「あと5個だ! どこだ? 土岐さん、何か見つからないか?」
「今、もう少し範囲を広げられないかやっているところだ。ところで伊能、屋内ってことはないのか? ビルの中で空調とか狙われたら、カラスたちにも見つけられないぜ」
須賀の部下が二人同時に叫んだ。
「回収!」
「これで17個。あと3個だ!」
伊能がそう言いながら時計を睨んだ。
伊能たちを守るように取り囲んでいるヤクザ達の方で、激しい怒号が聞こえてきた。
やはり警察には見破られたと伊能は苦笑した。
しかし怯む気持ちは全く無かった。
逆に覚悟が決まって、すっきりした気分だった。
――とにかく今は集中しなければ。皆、あと15分持ちこたえてくれ。これが終わったら、刑務所に送られても、死刑になっても構わない。我ながら身勝手に生きてきた俺が、知らない誰かの為に命さえ懸けようとしている。馬鹿臭いと思うけど、俺は俺の人生の中で、初めて正しい事をしている自信がある。意味もなく殺されようとしている人がいたら、精一杯助けようとする。誰が何と言っても、それが正しいことだ。
できれば今の俺を真澄に見てもらいたい……。
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コメント
異能戦隊サラマンダーの大活躍が、
始まりましたね。
さらに、カラス達の大活躍が凄いです。
頑張れ、異能戦隊サラマンダー。
投稿: ドスコイ | 2008年6月28日 (土) 20時53分
緊迫するクライマックスですね
結末はハッピーエンド
投稿: 一攫千金 | 2008年7月 3日 (木) 09時36分