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70 出撃

 AM7:00

「出撃じゃ!」
 須賀の声に全員が一斉に立ち上がった。

 須賀の部下が伊能を呼び止めて、紙袋を差し出し中身を見せた。
「昨日、秋葉原で買い集めた衣服の中に混じっていたんですが……必要ないですか?」

 伊能は少しの間黙り込んだ。
 やがて何かを思いついて顔をあげた。
「使えるかもしれない。一応持ってきてください」


 千代田区は、昼間人口と夜間人口の差がもっとも激しい区だ。
 夜間人口(居住者)は4万4000人と23区で最も少ない。
 ところが昼間人口は約19倍の85万人に膨れ上がる。
 その差は約80万人。

 その人数の大部分が、朝の通勤ラッシュに揉まれながら出勤してくる人間だ。

 この朝、その約80万人の中に、千人足らずの偽オタクたちが紛れ込んだ。

 付け焼刃的な扮装なので、相当おかしなものも多い。
 オタクというより、ただの変質者に見えるものもいる。
 それでもヤクザには見えなかったので、全チームが無事に配置についた。


 AM8:30

 霞が関に出勤してきたOLたちが不安そうに空を見上げた。
 無数のカラスが、空を縦横に飛んでいた。
 注意して見ると、信号の上、道路標識の上、自販機の上、ビルの看板など到る所で羽を休めている。

「ねえ、こんなにカラスって多かったかしら ?なんか変じゃない?」

「ホラー映画みたい……気味が悪い」

「まさか地震とか起きないよね?」
 そんな会話を同僚と交わしながら官庁ビルに入って行った。

 他にも不安げに空を見上げる者は多かった。
 しかし、これだけのカラスがいながら、ほとんど鳴き声をあげていないことに気が付いた者は僅かだった。

 伊能たちは日比谷公園にいた。
 大噴水の淵に5人並んで腰かけた。
 さりげなく手を繋いでいる。

「じゃ土岐さんフルパワーで始めましょう!」

 伊能と土岐はそれぞれの異能力を発動させた。
 土岐は嗅覚で、伊能は監視カメラ等の映像から、テロリストのサーチ(探索)を始める。

 希の力が流れ込んでくる。
 伊能も土岐も極限まで能力が高まるのを感じていた。


 帝都大学病院の一室では、困惑する医師を無視して、少年に繋がる全てのチューブを取り外していく母親がいた。

 外し終ると、母親はそっと少年の傍に横たわり、きつく抱きしめた。どんどん冷たくなっていく体を抱きしめ続けた。

 AM9:00

 警視庁に1本の電話が入った。

「サラマンダーの事件で手配されている男が日比谷公園にいる。変な髪形の危ない奴だ。一緒に手配されているヤクザの組長らしき男も一緒にいる」という情報に警察は色めき立った。

「須賀が一緒だとすると抵抗する恐れがある。組員たちが一緒かもしれない。拳銃の携帯、防弾チョッキ、盾の装備など態勢を整えて逮捕に向かえ!」
 即座にフル装備の警官約100名が準備された。

 AM9:20

「伊能! 国会議事堂周辺に、カメラを集中させてくれ!」

 土岐の叫びに伊能は国会周辺のすべてのカメラ映像を映し出した。

「あれだ。中国人風の二人。手にガイドブックらしきものを持っている! 観光客を装っている。一人は長身、小太り、ベージュのジャンパー、紺のズボン。一人は長髪、小柄、赤いセーター、白いズボン!」

 須賀の部下が携帯電話でその方面に連絡する。

「霞が関A―4出口! 日本人2人組。茶髪、中肉中背、黒っぽいスーツ、大きな黒いボストンバッグ、もう一人は灰色の作業服、サングラス、短髪、小柄!」

「東京地検前! 外国人風、イラン人かな。短髪、黒髪、長身、白長袖トレーナー、ジーンズ。もう一人も外国人。同じくイラン人かもしれん。野球帽、紺のジャンパー、紺のズボン、小柄だがデブだ!」

 伊能の見せる映像から、異臭を嗅げるまでに土岐の能力は高まっていた。
 要チェック人物を土岐が次々に特定していく。
 連絡を受けた偽オタクたちは、該当者を発見して尾行を始める。
 伊能の能力と土岐の能力は完全に連動し始めていた。

 AM9:40

「現在までに11組発見です!」
 須賀の部下が叫ぶ。

 何か言いかけて、かかってきた電話に出た。
 電話を終えると蒼白な顔になって叫んだ。

「警視庁近辺に配置したチームから連絡! 警官隊が緊急出動しました! 100人近くの大部隊です。目的地は日比谷公園方面。サイレンを鳴らさずに向かっているとのことです!」

 伊能はちっと舌打ちをした。
「見つかったか! やっぱり警察は敵だな。別動隊を急いで集めて俺たちの周りをガードしてくれ。2、30分食い止めてくれればいい。俺たちは急いでこれに着替えるぞ!」

 伊能は先ほど須賀の部下に見せられた紙袋を指差した。

 中を覗き込んだ万全が歓声をあげた。
「わーい! 戦隊物のコスチュームだ!」

 渋い顔の伊能や土岐と対照的に、万全とタケトは嬉しそうだ。
「これから、異能戦隊サラマンダーのコスプレショーだ! 顔も隠れるしな。別動隊はファンのふりをして俺たちをしっかりと取り囲んでくれ!」

「俺って何色だっけ?」
 土岐に万全が答えた。
「ピンクです!」

「ええええ! 別の色じゃダメか?」
「駄目ですよぉ。決まりですもん」
 苦い顔でピンクのコスチュームを土岐は着始めた。

「うぐぐぐぐぐぐ」
 万全が苦しそうな声を上げた。

 頭を覆うマスク部分に頭がどうしても入らない。
 ボディはぶかぶかなのに。

 伊能が呆れた声を出した。
「なんで、そんなに頭がでかいんだ?」

「あ、頭がでかいのは万全家の唯一の誇りです!」

 10時が迫ってきた。
 そのとき、日比谷公園に警官隊が突入を開始した。

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コメント

クライマックス絶好調という感じに思えてきました。

あっと驚くタメゴロー結末になるのでしょうか。
わくわくしています。

投稿: 俺俺詐欺 | 2008年6月24日 (火) 20時16分

万全は…いちいち美味しいキャラです(笑)

いよいよスペクタクルなシーンに…!
続きが早く読みたいですっ

投稿: リコノコ | 2008年6月25日 (水) 18時53分

うわー、当日に入ってる!!
続きが楽しみです~^^

投稿: カモミール | 2008年6月26日 (木) 20時02分

異能力戦隊?サラマンダーの
皆の超能力が確実に高まっていますね。
どんな結末になるのでしょうか?
期待で胸がいっぱいです。

投稿: ドスコイ | 2008年6月26日 (木) 20時04分

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