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66 折れないココロ

「ぬかったわ!」
 丸一日以上、こんこんと眠り続けていた須賀が、喚きながら寝室を飛び出してきた。

 三上が炎に包まれる、わずかに前のことだった。

 居間には万全一人がぼんやりとテレビを見ていた。
「お、万全さん、皆さんはどこじゃ?」

 万全は、泣きそうな顔で須賀を見つめた。
「伊能さんと土岐さんは昨夜別々に出かけたきり戻ってきません……タケトはパチンコに行くとか言って今朝出て行きました。もう……皆戻ってこないんじゃ……」

「うぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……」
 須賀の顔が真っ赤になった。
「ぬかったわ! わしが年寄りだから気を使いおって! 希君も、他の皆も!」

「の、希君?」
 訳が分からず、万全は須賀のボケが始まったのかと思った。

「希君もいないのじゃ! わしの中に自分のカケラを置いて、外に出ておるんじゃ。おそらく、敵の手がかりを必死で探してるんじゃろう……おそらく伊能さんたちも……」


 伊能は、マンションの屋上にいた。
 両手を高く空に突き上げ、くるくると回っていた。

 昨夜から一睡もせずに、千代田区中のありとあらゆる監視カメラをチェックして、YUKIの姿を探していた。

「俺はなんでこんなことをやっているんだ! 誰が死のうと関係ねえ! ましてや腐った官僚どもが減るなら結構じゃねえか! 畜生、頭がどうにかなりそうだぜ!」

 伊能はそう喚き散らしながら、能力がどんどんパワーアップしていくのを感じていた。恐ろしいほど数多くの映像が鮮やかに脳裏に浮かび、それを瞬時に識別できるのだ。

 その中に土岐の姿を何回か見つけていた。
 土岐は霞が関や秋葉原の人ごみの中で、一人立ち止って顔をあげ、目をつむって何事かに集中していた。
 土岐もまたYUKIの匂いを探しているのだと伊能は思った。


 希はネットの海に、自分を拡散していた。

 残り少なくなってしまったと感じる自分自身を、さらに拡散するのは怖かったが、パパやママを救うためだと思ってすべての勇気を振り絞った。

 今までとは比較にならないほど大量のデータが流れ込み、もはや希は自分が破裂する極限状態にいると感じていた。

 破裂したら、その後どうなるのか分らなくて、希は絶叫したいほどの恐怖に囚われた。

 そのとき希の拡散した極小な一部が、三上の発信した「願い」に接触した。
 希は一瞬で「願い」の内容を読み取り、再び自分を一つにまとめた。

 希は呼びかけた。
「異能戦隊サラマンダー! 大至急集合してください! 全てが分かりました!」

 伊能はピクリと反応して回転を止めた。しばらく動けないのがもどかしかった。

 土岐は日比谷公園でベンチに座って目を瞑り、人々の匂いを嗅いでいた。その目がはっと見開いた。

「やったか! 希君!」
 伸びた不精ひげを撫でながら、嬉しそうに立ち上がり、タクシーを拾いに通りへ向かった。

 タケトはパチスロをやっていた。
 突然びくっと体を震わせると、店員が見ていないのを確認してパチスロのコインをポケットに詰め込んだ。


 須賀はオタクの扮装をしたままの部下たちに大声で命じていた。
「飯の支度をせい! 腹が減っては戦も出来ぬからな。みんな腹を減らして帰ってくるじゃろう!」

 すっかり元気になった須賀を見て、万全の顔にも生気が戻った。
「あ、僕髪型セットしなきゃ!」
 いそいそと万全は鏡の前に座った。

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コメント

いよいよ戦闘開始ですね。
困難な闘いが予想されます。
頑張れ、サラマンダー。

投稿: ドスコイ | 2008年6月11日 (水) 15時37分

そっか!希くんがいたんだ!
しかし万全!こんな時も(こんな時だからかな?w)髪型かょ!!w

投稿: リコノコ | 2008年6月12日 (木) 01時34分

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