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68 前夜

 伊能たちが部屋に戻ると、須賀の4人の部下たちがひっきりなしにかかってくる電話と格闘していた。
 オタクに変装せよとの指示にとまどった、ヤクザ達からの電話だ。

 たちまち伊能たちも巻き込まれた。

 一人が叫ぶ。
「伊能さん! つるつるに頭を剃っていて、でかい蜘蛛の刺青を入れてる奴がいるんですが、どうしましょう?」

「帽子、野球帽をかぶってください!」

 別の男が叫ぶ。
「鰐皮のスニーカーはダメですか?」

 万全が答える。
「だめです! 普通のにしてください!」

「右手の指が1本、左手の指が2本足らないんですが?」

 土岐が苦笑いしながら答えた。
「手袋してください。アニメキャラ付きの!」

「顔に大きな切り傷が……ちょっと待ってください……おう、何? バッテン? ああ、そりゃひでえな。すみません顔にバッテンの大きな切り傷があるんですが?」

 伊能たちは顔を見合わせた。
「待機!」

 男は肯いて電話に向かった。
「お前は待機だ! 外には出るな!」

「女装はダメですか? 本人の趣味らしいんですが?」

 伊能がため息をついた。
「その人の体格は?」

「はい、いま聞いてみます。お前、ガタイは? なにい! 195センチ、120キロ?」
 伊能が呆れて手を振った。
「だめだめ! 待機!」

 須賀が叫んだ。
「破門じゃ! なんじゃ女装趣味とは! うつけ者め!」

 伊能が土岐に向って言った。
「土岐さん、ちょっとここ任せていいですか? 俺は明日の配置を考えますんで」

「ああ、まかせろ」

「タケトと万全も頼むな」
「はい!」
 タケトが元気良く返事した。
 万全は何か不満そうだ。

 伊能は言い直した。
「頼むぞ、レッド!」
「はい!」
 万全が誇らしげな表情で返事をした。

 帝都大学病院の一室では、目覚めぬ少年の手をさすり続ける母の姿があった。

「危篤状態と考えてください」
 医師がためらいがちに言った言葉は、まるで聞こえていないようだった。

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コメント

早く続きが読みたいです~!

投稿: リコノコ | 2008年6月17日 (火) 18時34分

女装趣味の巨漢のヤクザには、
大爆笑をしてしまいました。

投稿: ドスコイ | 2008年6月18日 (水) 04時29分

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