« 74 永遠の90秒 | トップページ | 76 ハローグッドバイ »

75 国家の誠意

 伊能たちの勾留は12日だった。

 取り調べでは全員が真実を語った。
 警察を馬鹿にしているのかと、激昂する刑事もいた。

「異能力」「ネットに存在する少年の意識体」「カラスの王様」「千代田区を対象とした生物テロ」「多重人格の殺人鬼」など刑事でなくても理解し難いだろう。

 しかし、一つ一つが客観的に裏付けられていく――。

 回収したGB缶は、確かに兵器級の威力があった。

 開発した三上准教授は、その世界では超一流の学者だった。

 事件の前日、自宅の火災で死んでいる。研究所のような造りの建物で、普通ではない激しい燃え方をしていた。遺体も完全に炭化して、一切研究書類らしきものは残っていなかった。

 事件当日、千代田区にカラスが異常集結していたことも、すぐに確かめられた。ジュースの缶を捨てた人間が、数人カラスに突かれて軽傷を負うという事故も起きている。

 二宮は確かに警視庁本庁ビルから飛び降りて死んでいた。
 警戒の厳しい本庁の中を、どうやって屋上まで上ったのだろうと大きな疑問が残った。

 「ネットの意識体」は本人である長野希が、植物状態から5年ぶりに意識を回復したことで、「奇跡譚」としてマスコミにも取り上げられた。
 意識を回復した時間が、希が消滅したと伊能たちが言っている、10月31日午前10時30分だったことも奇妙だった。警察は希のところにも行ったが、こん睡状態の頃の記憶は全く残っていなかった。

「異能力」に関しては、伊能たち全員から能力が消えてしまったため、実証のしようがなかった。

 12日間勾留されたのは、国家としてこの事件をどう扱えばいいのか苦慮したための時間だろう。

 最後の三日間は、容疑者というより賓客のように丁重に扱われ始めた。

 最初は留置場もバラバラにされた5人だったが、最後の三日間は一緒だった。

 釈放の日、年配の看守がきて牢屋のカギを開けた。
 そして、恭しく一礼して「本当に有難うございました」と言った。

 私物を返してもらう時も、やはり年配の係員で、伊能たちに深々とお辞儀をしたのが印象的だった。

「まだ時間がある。皆こっちにきて話そうや」
 伊能たちの取り調べの指揮を執っていた警察幹部が自室の応接間に招いた。

 全員が座ったところで、堂園と名乗るその男がつらそうな表情で
語り始めた。

 鼻も耳も潰れている、いかにも修羅場をかいくぐってきたタイプの刑事だ。
 喋り方も突き放すような感じがある。

「俺は、お前らの言うことを信じることにした。だけど、お化けは信じねえぞ。とにかくお前らの話は馬鹿げているし、滅茶苦茶だが、全て裏が取れる。だから、お前らは日本を救ったヒーローだ。こんなに凄いヒーローはテレビにもいないだろう」

 堂園はそこで言葉を切って、煙草に火を付けた。爪が脂でまっ黄色になっている。土岐といい勝負のヘビースモーカーらしい。

「1本もらえますか?」
 土岐が言うと箱ごと寄こした。

 煙を天井に向かって吹き出しながら話を続けた。
「だが結果として、今回の事件はすべて闇に葬ることになった。だってそうだろう。お前らの話を国家が認めたら、大変なことになる。だから事件の存在をすべての記録から抹殺する。須賀のところの若い衆もチャカを持っていた奴は、少し臭い飯を食ってもらうが、他の公防(公務執行妨害)でパクられた連中はすべてパイ(保釈)だ」

 伊能が口を開いた。
「俺たちは誰かに褒めてもらいたいとか、有名になりたいとか思ってやったわけじゃないですから、そうして戴いて結構です」

 警察官が部屋に入ってきて「車の用意ができました」と伝えにきた。
「じゃあ、そこまで送りましょう」

「いや、僕ら自分で帰れますよ」

「まあそう言わないで、これは本当にささやかな気持ちですから。あ、さっきあなた達を牢屋から出した看守がいたでしょ?」

「はい、年配の感じのいいお爺さんでしたね」

「あの方が警視総監です」

「ええ!」
 伊能たちは飛び上るほど驚いた。

「私物をお返ししたのが、警察庁長官です。公的に貴方達に何もしてやれないので、せめて……そんな気持ちを察してください」

 伊能たちは2台のパトカーに分乗して乗り込んだ。
「一か所寄り道しますけど、すぐ終わりますから」

 パトカーはサイレンを鳴らしてスムースに走った。
 そして警官が門を警備する大きな屋敷に入って行った。

「ちょっと車を降りましょう」

 降りた伊能たちに、屋敷の一角を指差した。
 大きな窓に白髪の老人が立ってこちらを食い入るように見つめていた。

「総理大臣!」
 伊能が気付いて思わず直立不動の姿勢になった。
 他の者も慌ててそれにならう。

 総理は伊能たちに向って、神仏を拝むように両手を合わせ、深々と礼をした。

 どぎまぎしながら伊能たちも頭を下げる。
 しばらくして頭を上げたら、まだ総理は頭を下げていたので、慌ててもう一度頭を下げる。

「さて行きましょうか。どこに行けばいいですか? お好きなところで降ろしますよ」

 伊能たちは暫く声もなかった。須賀などは感涙にむせている。
 それでも行き先を聞かれて、お互いの顔を見た。

 全員が同じところに行こうと思っていたのだ。
「帝都大学付属病院にお願いします」

|

« 74 永遠の90秒 | トップページ | 76 ハローグッドバイ »

コメント

よかったよかった!!

皆さんの行動が報われましたね。

投稿: ベリー | 2008年7月12日 (土) 21時50分

二話分読みました。
万全すごかった~(笑)
二宮を救えなかったのが惜しまれます。

最後まで楽しませてもらいます!

投稿: リコノコ | 2008年7月13日 (日) 09時54分

異能力戦隊?サラマンダーの活躍は
公に出来ないです。
しかし、総理に感謝されて、
異能力戦隊?サラマンダーの活躍は報われましたね。

投稿: ドスコイ | 2008年7月14日 (月) 07時47分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 74 永遠の90秒 | トップページ | 76 ハローグッドバイ »